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  烈火の如く 〜望蜀〜






「ウガアアアアッ!!」

 ガシャンッ

 人間・・・否、獣のような叫び声が鉄格子の牢に響く。

豊かなふわりとした白銀の髪。真っ赤な眼。頬に浮かぶ紫の紋様。左右に位置する獣耳・・・。
 そう、犬夜叉だ――――――

否・・・正確には常と異なる犬夜叉だ。
 犬夜叉は妖怪化している。



 事は五日前・・・

それまで犬夜叉は殺生丸のにおいが途絶えたあの山を一度離れ、近隣の山林やら森林やら、ずっと手掛かりを捜し続けていた。
 だがやはりあの山以外は考えられなかった。・・・殺生丸の残り香とその血痕が犬夜叉を追い詰め、急き立てた。
 そしていよいよ煮詰まり、刀々斎のところへ行った。


「刀々斎!!」

刀々斎は、変わらずにあの妖獣の骨の中を住居とし鍛冶場としていた。
 そしてひょっこりと現れた。

「犬夜叉じゃねえか。おめえの方から訪ねて来るなんて珍しいな。」
「・・・無駄口叩いてる暇はねえんだ、殺生丸が・・・」

犬夜叉は大雑把にこれまでを話した。ともかく自分はずっと殺生丸を追っていた事・・・その相手の変化(殺生丸の妖気の変化)、そして血痕と微かなにおいだけを残し、不自然に姿が消えた事・・・そこは重点的に説明した。

「・・・それじゃあおめえはずっと殺生丸を追っ掛けてたが、あいつはおめえを避けてたってわけだな。」
うるせえ!・・・色々あんだよ!!・・・・・・イチから全部を話したってしょうがねえだろ、とにかく今説明した通りだ。急がねえと、奴が・・・」
「・・・・・・殺されちゃいるまい。」
「・・・っ」
「じゃが・・・確かに急いだほうがいいじゃろな。」
「・・・どういう意味でい、何か知ってんのか!」
「半年程前に――――・・・わしは死神鬼を見た。」
――――・・・死神鬼・・・だと・・・?」
「わしの可愛い刀達が騒ぐでな・・・わしはふとお前たちのことが気になった。それでわしは、おめえがずっと寝床にしておった楓の村を訪ねたんじゃ。殺生丸のやつも頻繁に顔を出すって聞いてたしよ。じゃが、あの人間の法師に既におめえは殺生丸を追って旅に出たと教えられた。・・・わしが死神鬼を見たのは、楓の村を訪ねる道中じゃ。見間違いかと思ったが、あやつの黒い姿は見間違えようもねーからな・・・あやつもまた何かを追っているようじゃった。」
「・・・そんなハズはねえ、死神鬼は・・・殺生丸の天生牙が放った完全な冥道残月破で、あの時確かに冥界へ葬った。・・・第一、何で今頃・・・」
「とにかくよ、お前たちもずっと移動しておるようじゃったし、そうなればわしには到底追い着く事は出来ん。・・・死神鬼のことは気になったが復讐を企てたところで、お前たち兄弟に敗れた身。それに今や最強の刀を携えているお前たちなら、どうにかなっちまう事はないと信じておった。・・・犬夜叉、おめえもいるしな。殺生丸が無茶したとて、お前があいつを必ず守るだろうと思っておった。」

 刀々斎はチラと、犬夜叉を意味深げに見た。
 よもや刀々斎に、まさか自分の兄に対する想いを見通されてはいるまい、と犬夜叉は少し緊張した。
 刀々斎はそんな犬夜叉の様子を見ながら、言葉を続けた。

じゃが・・・死神鬼のほうが上手だったようじゃな。」
「・・・まだ、死神鬼の仕業と分かった訳じゃねえだろう。」
「・・・じゃあ他に誰が居る?・・・あの殺生丸相手に恐るることなく、近付く敵など。・・・死神鬼もまた、妖怪の中では特殊な種族。・・・しかも元々、あやつはお前たちの親父どのの敵。あやつにとってお前たちは因果ある宿敵の息子。・・・奪われた己の技を今度は息子が継いでるとなれば、報復に出るのも無理はない。そして再び敗れれば・・・・・・あやつの恨みは相当に根深いじゃろうて。・・・わしだってこんな想像したくねえが、もし・・・わしの予想が当たり、殺生丸を連れ去ったのが死神鬼であるなら・・・やべえぞ。」
「・・・・・・」

 黙って話を聞いていた犬夜叉が一瞬固まったのが刀々斎にも分かったが、忠告せねばならなかった。

「死神鬼は心理戦にも長けた策士。技でおめえにも殺生丸にも敵わねえ、となれば・・・何か違う方法を仕掛けるじゃろう。」
「・・・違う方法・・・?」
「わしにもどんなものかは分からねえが・・・現に殺生丸の変化と姿が消えたことも、そうした何かがあったんじゃねえのか?」

「・・・・・・っ・・・だったら・・・なおのこと急がねえと、殺生丸が・・・!!」
「・・・犬夜叉、おめえその山以外しか考えられねえっつったろ?」
「ああ・・・」
「結界があんじゃねえか?」
「・・・、・・・そう思って何度も手当たり次第に斬った。だが、当たりがねえ。」
「・・・・・・ふうん・・・まあ、あやつの結界は巧妙じゃろうて。じゃが、集中すれば気の流れの歪みは必ず見えるはずじゃ。そこへ鉄砕牙で、冥道残月破の刃を放て。さすれば、結界の中へ入れるやもしれん。」

 

 

そして犬夜叉は、刀々斎と別れた後すぐに殺生丸の消えた山へと戻ると、刀々斎の助言を元にもう一度鉄砕牙を振るった。

言われた通り、冥道残月破の刃を放ってはみたが、やはりやみくもに放っても駄目だ。虚しく木々が切り倒されるだけ・・・

「くそ・・・っ・・・」

一体、何処だ?何処に結界はある・・・!!
 大体、本当に結界が張られているのかも、分からない。
 だが何にしても、早く殺生丸の安否を確かめたい。殺生丸に会いたい。
 本当に死神鬼が生きていて・・・奴の仕業だというなら、今頃――――――――・・・!!

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