烈火    6P




 

「・・・俺・・・生きてんな・・・・・・」

 俺は確か、さっき・・・

 犬夜叉は起き上がり、辺りを見回した。
 破壊された空間と血溜まりの中倒れ伏せている死神鬼の姿。
 何が起こったのかよく分からない。
 だが、犬夜叉はそんな事よりも殺生丸の姿を捜した。

「殺生丸・・・っ」

 犬夜叉が慌て振り返ると、少し離れた位置に殺生丸は立っていた。

「・・・・・終わった。」

 殺生丸はいつもの様子で静かに言い、犬夜叉に背を向けた。
 犬夜叉の胸中をこれまでの事が走馬灯のように駆け巡った。

 何故、今の現状になったのか。
 でも殺生丸の様子から、殺生丸自身が何かを打ち破った。自身の力で死神鬼の呪縛から逃れたのだろう。
 感じる妖気のにおいも姿も本来の兄に戻っている。
 という事はやはり、自分は兄を守りきれなかったのか。打ち勝ったのは殺生丸自身で・・・

 犬夜叉は己の力量に歯噛みする思いであったが、殺生丸を守ったのは紛れも無く犬夜叉であり、その想いが殺生丸に本来の強大な力を呼び醒まさせたのだ。

 劇毒がなくともあの時あのまま短剣を殺生丸がその身に受けていたら、やはり命は無かったかもしれない。

 だが、とにかく今は。
 殺生丸を連れて帰る。
 犬夜叉は前に立つ殺生丸を見た。

「殺生丸・・・」
「・・・・・・」

 あれ程惨たらしかった傷は癒え、その背中は以前のそれだ。
 凛と立ち、完璧な美と妖力を兼ね備えた・・・

 ・・・否・・・同じではない。
 妖力は戻っても、どこかごっそりと何かが削ぎ落とされてしまったかのように憔悴しきった背中。
 犬夜叉の目にはそんな風に映った。

「殺生丸。」
「・・・・・・」

 やはり殺生丸からの返事は無かったが、犬夜叉はそっとその背中から相手を抱き込んだ。

「・・・殺生丸・・・」

 殺生丸には何の抵抗も無い。体に力を入れていないのが分かる。

 力強く優しい腕。
 温もり。
 ずっとこの腕に帰りたかった。

 きっとそれが気付かず求めていた殺生丸の本心。
 りんを亡くし独り彷徨った日々。
 囚われ被虐の身となり堕ちてゆく中で。

 犬夜叉は殺生丸の髪に顔を埋め、ポソリと言った。
 でも今後こその意を込めて。

「殺生丸・・・帰るぞ。」
「・・・・・・」

 殺生丸は黙ったまま、僅かに頷いた。








 二人は惨劇の舞台となった死神鬼の屋敷を後にし、楓の村へ向かった。

 「離れるな。」という犬夜叉の言葉に殺生丸は素直に従い、地を行く犬夜叉の後を追った。
 森林や山林の木と木、岩の間をゆく犬夜叉を殺生丸も宙に浮きながらふわり、ふわりと降り立ち着いて
行く。
 
だが途中、殺生丸が急に降り立ち自分の進む道とは違う方へ向かったので、犬夜叉は慌てて後を追った。


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