残 -ZAN- 1P
「ハァー、ハァー、ッ・・・殺生丸・・・っ」 「い・・・ぬ、夜叉・・・ッ、ァ・・・ッ」 「・・・・・・っもっと声、上げろよ・・・ッ」 「・・・ッ」 漆黒の渓谷を満月が照らして眩しいほど水面が煌く。 真夜中なのに鮮やかなほど浮かび上がる二人の輪郭。 絡み合う身体。 「ハァ、ハァ、・・・イイんなら素直に啼け・・・!!」 「痛・・・ッ、ン・・・ッ」 髪をぐしゃりと掴まれたまま頭を引き寄せられ、痛みに抵抗する間もなく接吻をされる。 そんな粗野な扱いを受けても黙っていられるのは相手が犬夜叉だから。 そして殺生丸にそんな無体な所業が出来るのも犬夜叉だけ。 静寂な夜。辺りに響くのは昂ぶる二人の動きが上げる水の音と乱れた吐息。 執拗な舌使いにこちらにまでいやらしい音が聞こえる。 何で自分が二人に気を遣ってこんな岩陰に隠れていつまでも川に浸かっていないといけないのか。 自分は欲を持て余し、自慰する為にここへ来たというのに。 まるで見せ付けられているよう。 心の中で男は一人ごちた。 二人の密事を見つめている男――――――― 弥勒。 弥勒は深夜、珊瑚たちに気付かれぬよう楓の家を抜け出しやって来たこの渓谷でたまたま二人の逢瀬を目撃し、今に至るまで身動き一つ取れずにいた。 激しくなっていく二人の動き。 弥勒に気付いていないのか。・・・おそらく水で臭いが消えているのだろう。それにまさか人間がこんな真夜中に山奥の渓谷で水浴びをしているなんてきっと想定外で辺りの気配を探りもしていない。今やあの二人に敵なんていないのだからすっかり気が緩んでいたのだろう。 まして犬夜叉はあの兄に夢中だ。 どこで声を掛けるべきだったのか。 声を掛けなかったのは盗み見をする為じゃない。 ただ機会を失った。 半刻ほど前自分が水に浸かった矢先、遠目に青白い何かがこの渓谷にそっと降り立つのが見えた。 すぐに妖怪だと分かり一瞬身構えたが、邪悪な気は感じなかった。 徐々にこちらへ近付いてくるそれ。 銀色の髪をなびかせながら。 着物をそっと落とし静かに川へと浸かり沐浴をしているような一匹の妖怪。 濡れて月の光に縁取られた体があまりにも美しくて。 見惚れていた。 殺生丸。彼に対して自分は今まで特別な感情を抱いたことはない。 そんな相手じゃない。 闘いの中で目にしてきた彼を鮮烈に覚えている。 自分がどうこう出来る相手じゃない。 ただあのとき・・・奈落との闘いでりんを犠牲にしようとした珊瑚に手を下さなかったのを知ったとき・・・自分が思っていた印象と違う男なのかもしれないと思った。 でも彼をよく知る前に彼は犬夜叉のものになっていた。 それを今、知った。 なんとなく昔から犬夜叉の殺生丸に接する態度のそれから、薄々察してはいたが。 どうやってあの兄を犬夜叉が堕としたのか。 ついさっきまで自分と殺生丸だけの特別な空間だったのに。 いとも簡単に犬夜叉はぶち壊した。 触れることすら叶わないような相手だと思っていたのに犬夜叉はその相手になんの躊躇もなく抱き着き川岸へ押し倒した。 出来れば見たくはなかったがこうなってはもうこのままじっとしているしかない。 下手に動けば瞬時に二人にバレて二人の濃密な時間を今度は自分がぶち壊してしまう。そうなれば三者気まずいばかりか自分はあの兄に殺されかねない。 それに・・・ 「アアァ・・・ッ!!」 突如、掠れた悲鳴のような声が響いた。 「ハァ、ハァーッ」 「アッ・・・ァ・・・ッ」 弥勒は思わず口元を手で押さえた。 (入った。) 前後する犬夜叉の動きに合わせて激しく揺れる殺生丸の体。 犬夜叉の動きに容赦はない。 妖怪同士だからか。 こちらが心配になるほど乱暴に事を進める。 けれど苦しげによがる声はどこか艶があって。その声に応えるように腰の抽挿を速める犬夜叉の荒い吐息もどこか甘くて。 慣れた関係だということをうかがわせた。 「殺生丸・・・ッ!!ァ・・・ッ」 「ハ・・・ア・・・ッ犬夜叉・・・ッ」 隙間も無いほど密着した二つの身体が一つの塊に見えたとき互いを呼ぶ声が切羽詰ったものへと変わり、達したのが分かった。 情交を終えた二人は未だ離れずにいる。 はっきりと表情まで分からないが、先程までが嘘のように穏やかな様子だ。 犬夜叉の腕を解き抜け出そうとする殺生丸を犬夜叉が再び包み込むように抱き、耳元で何かを囁く。 ―――――――・・・一部始終見てしまった。 動けずとも目を逸らしていればよかっただけのことなのに。 弥勒は自分の下半身に目をやった。 ・・・男同士の交合を見てヌクなんて。 |
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