静かで確かな温度    6P




  


「・・・ゥ・・・ァ・・・ッ」

 嫌なら死に物狂いで抗えよ。
 毒爪でも、なんなら爆砕牙でも使って拒絶を示せばいい。

 慣らしもそこそこに指を引き抜くと怒張した自身を殺生丸のソコへ宛がい、ぞんざいに貫いた。

「ウァ・・・ッ!!」
「・・・っ・・・」
「ァ・・・ァ・・・ッ」
「・・・ハ・・・ッ」

 何の気遣いもない挿入。
 キツイのはお互いさま。

 でもまだその奥に残る濡れた熱と俺の先走りが抽挿を助ける。

「ハーッ、ハーッ、」
「ハァッ、ハァッ・・・ァ・・・ッ」

 呼吸が整わないまま加速する激しい律動に相手は快楽も何もあったもんじゃないだろう。
 されるがままに揺れる身体。
 苦しげに顰められた眉。

「ハーッ、ハー、ハッ・・・殺生丸・・・ッ」
「ハッ・・・アッ・・・ァ・・・ッ」

 相手の状態を無視して自分の切羽詰った快楽だけを追って穿つ。

 爆ぜてもすぐに熱を持って猛る欲望。
 意識を飛ばすまで何度もめちゃくちゃに突き上げた。













 冷え切った空気に晒されながら冷たい縁側で未だ横たわる殺生丸。
 元々甲斐甲斐しく世話なんか焼く性分じゃない。
 犬夜叉は殺生丸を放置したまま、崩れた姿勢で柱に寄り掛かり気だるそうに座り込んでいた。

 乱れたままの襦袢から覗く激しい情事の痕跡。
 喉元から足先まで痣のような鬱血している。

 大事にしたいのに大事に出来ない。

 愛情は。

 もっと。

 包み込むような温かなものだと思っていたのに。


 ふと長い睫毛が小さく揺れた。

――――・・・」
「・・・起きたかよ。」

 掠れた低い声。
 犬夜叉も疲れているのは無理もない。
 根性で相手より先にへばるのは回避できたが殺生丸の意識が途切れた頃、犬夜叉も半ば朦朧としながら絶頂を迎えていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 殺生丸はゆっくり上体を起こすと胸に流れた髪を梳くように払った。
 その姿が酷く妖艶で。

 手酷く抱いた痕跡さえお前の色に染まる。
 その美しさを際立たせる。

 それが俺をイラつかせ不安にさせる。

 まだ何か足りないのは自分で。
 殺生丸はいつも同じ温度だ。

 もう一度抱いて・・・・・・いっそ抱き殺してやろうか。

 ふとそう思う一瞬がある。

 ・・・でもさすがに今日はもう無理だ。
 殺生丸もそうだろう。
 これ以上俺に応える体力はもう残っていないはず。

 犬夜叉は内心で自嘲気味に笑った。

 すると突然。
 不服そうに見つめる視線に気付いたのか、殺生丸の指先が犬夜叉の首に伸びる。

「!!!!ッ・・・ッ」

 ゴンッと凄い音と共に床に打ち付けられた後頭部。

 自分の首から血が流れているのが分かった。
 絞めるようにギリギリと食い込む殺生丸の鋭い爪。
 俺に跨り俺を見下ろす。
 その眼は恐ろしいほど冷たく澄んでいて。
 やはり一切の感情を読ませない。

「!!・・・ッ」

 眼を合わせたのも束の間、殺生丸からの噛み付くような接吻。
 首には爪が食い込んだまま。
 痛みと恍惚が合一だ。

 その手首を掴み、相手の背中へ捻り上げる。

「・・・っ」
「!!・・・ッ・・・」

 今度はこちらから貪るような口付けを返し、主導権を自分へ戻す。
 相手の舌がこちらの口内に入るより先に相手の口内へ侵入し犯しながらもう片方の手首を掴んで床に押し倒した。

 殺生丸は片方の手首は背に、もう片方の手首は頭上に貼り付けられたまま脚を絡ませてくる。
 限界の体力とはうらはらに反応を示す塊を擦り付けるように俺も腰を揺らす。

 消耗戦のような抱擁と接吻。

 もっと反応が見たければ反応が出るようなことをすればいいんだと気付いた。
 でも欲しい言葉も顔も俺にはくれない。
 知りたい“内側”は決して俺には見せないだろう。

 どう思っているか、とか。
 お前から本心を訊きだすのは永遠に無理だから俺は俺のしたいことをするしかない。

 言葉(カタチ)にしたところで永すぎる時の中で意味を変えていくなら。薄れていくなら。
 消えない今を繋いで刻んでいけばいい。
 全部の俺をぶつける。

 それで赦され続けるなら。
 それがお前の答えなのかもしれない。

 事実、こうしている今が。


「ッ・・・!!」
「・・・ッ・・・」

 体位がめちゃくちゃになる程意地の張り合いみたいに口付けをしながら絡み合っていたら縁側から転げ落ちた。

 口に出せず鎮火しきれない身勝手な嫉妬を凶暴な欲に変えてその身に注ぐことしか出来ない自分。
 これから先もきっと。

 なら、せめて。

 これくらいで怪我なんかしやしないのに知らず頭を支えた手。
 庇うように抱え込んだ腕。
 それが俺のお前に対する“本当”だと思ってくれれば。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 二人とも足だけ僅かに縁側に乗っかり、いかにも転落しましたといわんばかりの無様な体勢。
 口を離して顔を見ればその眼は相変わらず冷たい。

「・・・犬夜叉・・・」
「・・・ん。」
「・・・・・・重い・・・」
「・・・。うるせーよ。」

 せっかく身を挺しても、まったくコレだ。
 相変わらずの口ぶり。
 でもまあともかく奥の畳へ移りたい。

 だが身を起こし掛けた俺に伸ばされた手。
 俺の頬に触れる冷たい指先は優しかった。















 
  6P (完)
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