静的、動的、ecstasy




   


濃厚な交合をしたのはたった数日前。
それなのに犬夜叉は殺生丸に逢いたくて仕方がなかった。
だから琥珀への用事を済ますと早急に切り上げ帰路についたのだった。

本当は琥珀の居る北の地で一晩過ごすつもりだったが、やはりどうしても今夜逢いたい。

においを追って難なく殺生丸の元へ辿り着くと、その姿を見るなり犬夜叉は乱暴なまでに抱き締めた。
あまりの勢いに殺生丸の体が反り返り後ろへ倒れそうになるが、犬夜叉の腕がその腰を抱き込み支える。
すぐに開始される激しい接吻。

「ン・・・ッ・・・ハ・・・」

一呼吸しようと口を離してもすぐに絡み付いてくる舌。
口内を延々と侵食され息が上がる。

「ァ・・・ッ」

口が解放されると今度は首筋を熱い舌が舐め上げ、それを受け入れながら殺生丸も犬夜叉の耳を甘噛みする。
だが、犬夜叉は急にぴたりと動きを止めた。

「?・・・」

突如愛撫が止んだことで殺生丸は訝しげに犬夜叉を見つめる。

「・・・犬夜叉・・・?」

これからの濃密な展開を予想して体は昂っているというのに、何だというのか。

「・・・お前・・・弥勒と居たな?」
「!」

殺生丸はハッとした。
一瞬自身の身体が揺れたように錯覚するほど、強く脈打つ。

初めから分かっていた。
犬夜叉が気付かないはずはないと。
だから答えるつもりでいた。

『法師と居たか』と訊かれれば肯定し、『何があった』と問われれば“何もない”と。

今回の件に限らず今までだってそれで済ませてきた。
有無を言わさず黙らせてきた。
だが今宵はどうやらそれで済みそうにない。

顔を上げた犬夜叉の眼。

「!!」

目を合わせた刹那、何処をどう掴まれたのか分からないがもの凄い力で木に叩き付けられた。

「・・・ッ・・・」
「・・・・・・分かってたけどよ・・・ただ・・・」
「・・・・・・」
「・・・何でてめえの着物から弥勒のにおいがしてる?」

追求したところで口を割らない兄の性分を犬夜叉だって分かっている。
だからこそ黙っていた。

殺生丸を探し辿っている時点でとっくに弥勒のにおいも感知している。
おそらく一緒に居るだろうと。
それが二手に分かれたことで、当然犬夜叉は殺生丸の元へ駆けた。
何故二人で居たのかは知らないが、訊いたところで答えない相手と無粋な問答を続けるより早くその体を味わいたい。
それにこの兄が不貞をはたらくはずはない。自分たちは別に夫婦(めおと)の間柄ではないし、過去の異性交遊は知るところではないが、何となく・・・否、絶対的にそこは信じていた。
だから訊かなかった。
きっと何かよほどの用か(それも妙だが)、たまたま偶然会ったのだろうと。
そう思うことにしていた。
その肌から弥勒のにおいを感じるまでは。

香木を焚き染めた法衣の匂い。弥勒のにおい。
着物はおろか、素肌からも。

「・・・答えろよ。」
「・・・・・・」

唇がかすかに触れ合うほど顔を寄せて問う犬夜叉。

今はもう何を言っても駄目だ。
理解は得られない。
第一何を話す?
何処まで話す?
話せるわけはない。
己自身に後ろめたいことは何一つなくとも。
“法師が酒に酔って己の身体を翻弄しただけ”とでも言っておけば良いのか。だがそれなら何故拒否しなかったのかと問われるだろう。
己とてあんな無様な醜態を犬夜叉に知られたくはない。
あの法師とは何もなかった。そういうことにしておきたいのだ。
様々な想いが交錯し殺生丸は複雑な面持ちで犬夜叉を見つめるが、目の前には半分理性を失った犬夜叉の鋭い眼光。
犬夜叉は内から湧き上がる憎悪のあまり妖怪化しかかっているのだ。

「・・・なあ。」
「・・・・・・」

首を絞めんばかりに殺生丸の着物の襟を掴み上げる犬夜叉。

「答えろ。」
「・・・・・・」

掴む手に力を入れられ、ぎりぎりと首に食い込む襟。
常ならこんな無体を許さないが、己を責める犬夜叉の心情は理解できる。
殺生丸は諦めたように身体の力を抜き、目を逸らした。
だが、弁解すらしない兄のそんな様子が更に犬夜叉の逆鱗に触れた。

ドッ

「ッ・・・ゥ・・・」

頭を強く打ち視界が歪む。
襟を掴んだまま犬夜叉が殺生丸を木に叩き付けたのだ。

ドッ  ドッ  ドッ

そのまま何度も殺生丸を木に打ち付ける。
血の匂いを嗅ぎ取り犬夜叉が手を離すと殺生丸は崩れるように膝を着いた。
月明かりで後頭部に血が滲んでいるのが見て取れる。
犬夜叉はしゃがみ込み、朦朧としている様子の殺生丸の首に手を伸ばす。
探るように襟足の辺りを撫でると、ぬめる感触。
手のひらを確認すると、べったりと血が付いていた。

「・・・・・・」

犬夜叉は血の付いた指先をぺろりと舐める。

「甘・・・うめーな、お前の血。」
「・・・・・・」
「・・・・・・そういや此処に来る途中でいい感じの納屋見付けたんだよなあ・・・」
「!!」

ドガッ

犬夜叉の拳が鎧を砕き殺生丸の鳩尾に食い込む。

「・・・っ・・・い、ぬ・・・夜・・・―――――――

意識を失い倒れる殺生丸の体を抱き留めた犬夜叉。

「たっぷり仕置きしてやるよ。」

抱え直し立ち上がると惨忍な笑みを浮かべ、ゆっくり歩き始めた。





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