目的の納屋に着くと腐りかけた戸を脚で蹴り倒し、中へ入った。
思った通り使われていないようだ。
人間のにおいはなく、何の手入れもされていない。
仮に使われていたところで、こんな夜更けに誰も来やしないだろう。
「ふー・・・」
ドサッ
放るように殺生丸を床に降ろす。
そして乱暴に抱き起こすと髪に手を入れ、後頭部の傷を確認する。
「・・・ふん。」
血はもう止まりかけている。
「ま、これくらいじゃどうってないよな。お前は。」
大妖怪であっても痛みを感じるのは皆と同じなのに、犬夜叉はそれをまるで考えずに次の作業に取り掛かる。
「ほんとイイ所を見付けたもんだぜ。」
きっと此処は農業用の納屋だったのだろう。
辺りには縄や鎖、鍬など様々な種類・形の道具が散乱している。
犬夜叉は殺生丸の鎧や刀を外すと剥ぎ取るように着物を脱がした。
襦袢一枚となった殺生丸を抱え込み、半ば引きずるように壁際へと移動する。
無造作にもたれさせたところでまたしても血の匂いに気付き、殺生丸の体を乱暴に己へと引き寄せる。
肩と背中に僅かな血の滲み。
壁をよく見れば所々釘が刺さっている。
「チッ!」
犬夜叉は苛立ち、ブチブチと引き抜いては外へ投げ捨てた。
原因が何であれ己以外の他の働きで殺生丸の身体が傷付くのは我慢ならない。
「・・・ったく、めんどくせー!」
ドンッ
もう一度殺生丸を壁へともたれさせ、片方の手首を掴む。
「男にしては細い手首だよな。・・・・・・綺麗な爪・・・」
少し馬鹿にしたような口ぶりでぼやき、観察するようにまじまじと兄の手を見つめる。
決して弱々しいわけではないが、やはり人間のそれとは異なり肌質や爪がおそろしく綺麗なのだ。
しなやかな指先。
だが毒を蓄えあの爆砕牙を易々と扱う強大な妖力を秘めた手。
この手を見ていると一体どこからそんな力が湧き出てくるのだろうと不思議でならない。
「・・・・・・」
弥勒もこの肌に触れたのか。
ふと脳裏を過ぎる弥勒の影。
ぼうっとしばし見惚れていたが込み上げる猛烈な怒りに犬夜叉は手近にあった縄をひったくるように掴むと殺生丸の手首に幾重にも乱暴に巻きつけ、両手を縛り上げた。
頭上には頑丈そうな太い杭。
「丁度良いぜ。」
縛った殺生丸の両手を持ち上げ、力任せに括り付ける。
身体は壁へともたれているが、両腕は宙へと吊るし上げられた状態の殺生丸。
犬夜叉は口端を吊り上げ、満足そうに眺めた。
「・・・フ・・・起きたら怒り狂いそうだよなあ。・・・まあ暴れだしたら反撃食らう前に捩じ伏せるだけだ。・・・・・・さてと・・・」
パンッ パンッ
続けざまに殺生丸の頬を平手打ちする。
「いつまで寝てんだよ、起きろ。」
パンッ
「――――――・・・、・・・・・・っ」
「お。」
微動し長い睫が揺れたことで、犬夜叉は手を止めた。
「・・・・・・」
「起きたか。」
「・・・っ、・・・!!」
目前にある犬夜叉の顔。体を動かそうとして己の状態に気付いた殺生丸は犬夜叉を鋭く睨み付けた。
バシッ
「何だよ、その眼は。」
犬夜叉は強く殺生丸の頬を叩くが、殺生丸は動じない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
静かな怒りを宿し見据える金の光。
ギラギラと嫉妬の炎を宿し燃える金の光。
月明かりの中、眼と眼がぶつかり合う。
「・・・文句があんなら言い訳の一つでも言ってみろよ・・・」
「・・・・・・」
「なあ・・・弥勒と何してた?・・・」
「・・・・・・」
犬夜叉はわざと確証を知らしめるように殺生丸の首筋に口付ける。
「弥勒のにおい・・・」
その言葉に殺生丸の身体が微かに反応し揺れる。
それを犬夜叉は見逃さない。
「・・・ふ、愚問だよな。・・・どうもこうも・・・抱き合いでもしねえ限りてめえの体からあいつのにおいがするはずはねえ。」
「・・・犬夜叉。」
「!」
急に口を開いた兄に犬夜叉は少し驚くが、その眼は相変わらず抗議するような責めるような鋭い光を保ったまま。
何で俺がそんな眼をされなきゃならねーんだ。責めたいのはこっちだ。非があるのはそっちだろう。
犬夜叉は腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
「・・・何だよ、上手い言い訳でも思いついたか?」
「・・・・・・」
「チッ、結局だんまりかよ。」
「・・・お前の思うようなことは何もない。」
「!・・・・・・」
知りたいのはその言葉の中身とこのにおいの理由。
密着していたのは隠しようもない事実だろう。
互いにそんなこと分かっているはず。
「首の肉と一緒に頚動脈噛み千切られるか・・・もう一度腕を落とされるか・・・どっちがお前には堪えるかなあ。」
再び口付けながら囁くように残酷な仕打ちを告げる犬夜叉に、殺生丸の体が強張る。
「・・・フ。ハハハ!!・・・何びびってんだよ、んな事しねえよ。冗談だ。」
「・・・・・・」
「でも、ま・・・“何もない”ってんなら確かめてやるよ。」
バサッ
突如、犬夜叉は殺生丸の襦袢の裾を左右に開いた。
「!!?・・・ッ」
「・・・脚、開け。」
「!!・・・」
|