犬夜叉は殺生丸の身を案じるあまりの震える焦りと、猛る己を落ち着かせる為、ふうっと大きく息をつき目を閉じた。
自身が静止した分、木々を通り抜ける風の流れも、葉が落ちる音さえ煩いくらいによく分かる。
すっと静まった心に、りんの顔が浮かんだ。
どれほど無念だったことか・・・・・・
愛する者をおいて逝くこと。
想う気持ちは同じなのに。
・・・否、りんは人間だ。いずれにしても自分が先に逝く身なのだ。
何もかもを解っている上で、りんは奴を愛した。
幼き頃よりずっと殺生丸と一緒にいた娘・・・
殺生丸が唯一傍に置き、大切にした人間の娘・・・
そのりんが俺に奴を守れと言った。
俺は誓ったんだ。
あの日、りんの墓前に。
必ず殺生丸を捜し出し、俺は俺のやり方で奴を守ってゆくと。
りん―――――・・・殺生丸・・・・・・
俺は、空を見上げた。
りんの笑顔と、最後に寒空の中見た殺生丸の悲しい眼・・・二人の姿が浮かんだ。
・・・・・・許さねえ・・・
連れ去ったのが誰であれ、俺らから殺生丸を奪うなんて許さねえ。
死神鬼―――――・・・あの野郎なら何処に結界を張る?
上空だ。
周辺は斬っても反応は無かったのだから、上空しかねえ。
だが、俺は宙を浮かぶ事は出来ない。
まるで俺を拒むように。困らせるように。仕組まれたみたいな・・・
だがな・・・俺は、昔から諦めが悪イんだよ。
例え罠でも、ぶった斬ってやりゃあいいんだからよ!!
俺は木と木を飛び、山の頂を目指した。
そして一番高い木を蹴り、宙へ飛んだ。
自らの体が地へ落ちる前に、一瞬で嗅ぎ取らなければならない。
「そこだあアーーーーッッ!!」
俺は瞬間、気の流れの歪みを感じて、鉄砕牙を振るった。
放たれた”冥道残月破”の刃が何かに当たり、稲妻のように黒く光り、異空間の淀みが見えた。
俺は迷わず、その中へ身を投げた。
中は真っ暗だった。
己が浮いている様に感じるが、地には着いているのだろう。
足裏に冷たい床の感触がする。
だが、果たして自分は何処に居るのか。
何処へ繋がったのか。
進もうとして、すぐに体が何か硬い棒のような物にぶつかった。
手探りで触れると、均一にその硬い棒は並んでいて棒と棒の間隔からすり抜ける事は出来ないし、強度もどうやら自身の力だけでは壊せるものではなさそうだ。
ならば、鉄砕牙を振るうか―――――
そう思って刀を抜いた時、ボウっと周りが俄かに明るくなった。
明るいといっても若干目が効くようになった程度で、依然暗い。
が、それで分かった。
檻だ。
自分は檻の中に居る。
その広さは二畳程。自分以外は何も無く、周りは全て鉄格子で囲まれている。
やはり罠か。
なんにしても、とりあえず斬るしかねえ!!
「やめておけ」
刀を振り上げた時、暗闇に人影が浮かび、その声を聞いた。
そして柵越しにその顔を見た。
「ッ・・・!!てめえ、死神鬼・・・ッ!!やっぱり、てめえか・・・っ!!」
刀々斎の言った通りだ・・・
「ククク・・・・・・」
俺は、全身の毛が逆立つような怒りを覚えた。
「殺生丸を何処へやった!!てめえなんだろ!?」
「止せと言ったはずだが。」
死神鬼のその言葉を待たずして、俺は刀で柵を斬り付けていた。
その瞬間、グニャリと全ての空間が歪み、真っ暗闇になったかと思うと、どうしたことだろう。また元の状態だ。
つまり、一瞬前と変わらずに自分は檻の中に居る。
もちろん、目の前には憎らしい男が居て平然と冷たい笑みを浮かべている。
どういう事だ。確かに、俺は柵を斬ったはず・・・
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