「・・・フ・・・だからやめておけと言ったであろう。この檻は妖力で出来ていてな。この鉄格子全体にも特殊な結界を張ってある。結界が破れても、一瞬で元の状態に戻るのだ。つまり貴様がいくら自慢の刀で斬りつけたところで、全く無駄という事だ。」
「・・・くそ・・・っ」
「・・・・・・殺生丸に会いたいか。」
「!!ッ・・・」
「・・・貴様の察する通り、奴はわしの屋敷の中の部屋に捕らえてある。」
「・・・ッ・・・あいつは無事なんだな!?」
「・・・・・・」
死神鬼はその問いに黙っていたが、冷酷に犬夜叉を見やり微笑した。
「何、笑ってやがる、答えろ!」
「・・・つくづく・・・わしの予想通りだと思ってな。」
「何の話だ!」
「貴様のその様子が、だ。・・・・・・あの兄がそんなに必要か。大事か。」
「・・・ッ・・・」
「・・・判りやすい奴だ。ク・・・安心しろ。殺生丸は生きている。」
「!!・・・」
「ただ・・・」
死神鬼は言葉を続けながら、腕を真一文字に振り切った。
「貴様の言う、”無事”かどうかは知らんがな・・・」
すると、どうだろう。死神鬼が腕を振り切ったと同時に、別の空間が見えるようになった。
そこも薄暗くはあるが、部屋のようだ。
そして犬夜叉はハッとした。
「!!」
犬夜叉は、その薄暗い部屋の中に横たわる人物を見た。
白銀の髪。頬と額に浮かぶ、朱線と藍色の三日月。
金色の眼は閉じられているが、間違いない。間違いようのない美しい面。
「殺生丸!!」
犬夜叉は叫んだ。
「殺生丸ッ・・・!!」
「無駄だ。どれだけ叫ぼうと奴には貴様の声は届かない。殺生丸の居る部屋から此処は見えない。」
「・・・てめえ!死神鬼、殺生丸に何しやがった!!」
「・・・ククク・・・」
会いたくて堪らなかった兄の姿がそこにある。
「此処から出せ!!」
「・・・・・・いずれ会わせてやる。」
「今すぐ此処から出しやがれ!!」
「・・・姿が見れたのだから満足だろう。少しは感謝してほしいものだな。」
「てめえ、何寝ぼけた事言ってやがる!!」
「・・・・・・全く貴様ら兄弟揃ってよく似ておるわ。」
「ナメんな!!」
「・・・良いのか?わしにそんな口を利いて。・・・殺生丸の命は今わしの手の中にあるのだぞ。」
「!!・・・っ」
「・・・大人しくそこで見ておれ。・・・・・・せいぜい己の非力に泣くがいい・・・」
そう言って死神鬼は、暗闇の中へと姿を消した。
「待てッ・・・死神鬼!!てめえの目的は何なんだ・・・っ!!」
殺生丸の居る空間を結界に繋いだまま姿を消した死神鬼。
「殺生丸・・・ッ」
犬夜叉はもう一度殺生丸に向かって呼び掛けたが、やはり殺生丸の居る側には聞こえないらしかった。 確かに先程の死神鬼との会話も、この檻のある空間だけで声が響いているようだった。
だが、この時はまだ死神鬼の意図が分からず、とりあえず兄が生きている事に犬夜叉は心底安堵してい
た。
・・・殺生丸のあの姿・・・何故、鎧や刀が外されてる?・・・完全無抵抗状態にする為か。
だが、殺生丸が簡単に死神鬼なんかに捕まるワケがねえ・・・
姿を見ることさえ叶わなかった、この半年程の間―――――・・・やっぱり殺生丸の身に何かがあったんだ。
・・・大きな怪我は負っていないようだが、白い襦袢に血が滲んでいるのが見える。
ずっと外されていないのであろう、足枷が目に付いた。・・・赤紫に鬱血し、擦り切れて出血した足首が痛々しい・・・
だが、とにかく奴は生きている。
やっと・・・・・・やっと辿り着いた。やっと会えた。
待ってろ、必ず助け出してやっからよ!!
そしてその夜――――――――
「うあああああああああ!!!!」
空気を震わすような犬夜叉の叫びが檻に響いた。
例え事実現実でも受け入れ難い光景。
あの誇り高い殺生丸が、他者に押え付けられ、陵辱されている。
その苦悶に満ちた顔から、合意の上でない行為と判る。
無抵抗の身体を手荒に弄られ、揺さ振られている。
悪夢のようだった。
否、悪夢でもいい、夢だと思いたかった。
犬夜叉は慟哭し、怒りに激昂した。
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