障子を通して外の明るさを感じ、犬夜叉は薄っすらと目を開けた。
前には殺の白銀の髪。
一月前、以前と変わらぬ朝。

夢じゃない。
二人の関係が元に戻ったことを犬夜叉は改めて実感した。

腕に納めたままの細い肩が小さく身じろぐ。
殺も目が覚めたらしい。

犬夜叉は無意識に殺の頬に唇を寄せた。
そして唇を重ねる。
軽く啄ばむような口付けを受けながら殺は大人しく身を任せていた。

「なあ・・・そういえば産まれるのっていつ頃なんだ?」

殺の長い髪をくるくると指先に巻き付け弄びながら犬夜叉は尋ねた。

「・・・おそらくあと二月程で産まれるだろうな。」
「エエッ!!?・・・そんなに早いのか!?」

犬夜叉が勢いよく起き上がったので殺も身を起こした。

「何を驚いている。普通のことだろう?」
「だってあと二ヶ月だぞ!?・・・普通は10ヶ月・・・」
「それは人間の場合の話ではないのか。」
「!・・・ああ、そうか・・・」

なんてこった。

妖怪の妊娠期間が短いことなど初めて知った。
既に一月経過しているとしても三ヶ月程で子を産むということになる。

やはり人間と妖怪では体の仕組みが根本から違うのだ。

「・・・けどお前・・・だったら尚更早く話せよ・・・!!変な誤解で言えなくさせちまった俺も悪ィけどよ・・・色々必要なもんだってあんだろ、準備とか・・・」
「何も必要ない。・・・それにそのうち嫌でも邪見が揃えて回る。」
「そうかもしんねえけど・・・とにかく・・・今回の事・・・、・・・もうちっとお前も俺を信用しろよ。子も欲しくないのに毎日中出しする程俺ァ鬼畜じゃねえ。勝手に自己完結しようとすんな。」
「・・・」

べちんっ

言っている内容は理解出来るがあまりに品のない物言いに、殺は犬夜叉の頬を叩いた。

「イッテ・・・何だよ!」
「ふ・・・」
「何笑ってんだ、ヒトが真面目に・・・」
「・・・まあ、確かにな・・・・・・」
「?・・・何だよ?」
「別に。」

夕べの事。
あの状態で己より辛かったのは犬夜叉のはずだ。

共にした布団の中で硬度を保ったままの犬夜叉の熱を終始腰に感じていた。
犬夜叉だって男。
これまでの情事を思えばきっと夕べは穏やかな口調の中で気が狂いそうなほどの欲望と葛藤していたはず。
抑えられたのはよほどの精神力と・・・・・・愛情。

誰も何も必要とせず生きてきた己。
信じられるのは己の力だけ。
それが全て。

でもこの先は。

溢れ出す初めての想い。


殺はゆっくり立ち上がり、静かに障子を開けた。
降り続いた雪は止み、柔らかい朝陽が庭に積もった一面の雪を照らしている。

「身体、冷やすぞ。」

自身の赤の衣で包むようにそっと殺を抱く犬夜叉。

「殺・・・」
「・・・・・・」


愛しい。恋しい。


昔から大嫌いな半妖の弟。この男が。


「犬夜叉・・・」
「・・・・・・」

静かに絡み合う視線。
互いへの愛情が口付けから広がる。


犬夜叉にとっては幸せ絶頂の中での言葉だった。
それが殺を追い詰め苦しめていた事実。

殺は純血の妖怪。
それも生まれながらにして最強の血を引く大妖怪だ。
過ごしてきた境遇もまるで違う。

理解し合えないことはきっと沢山ある。

これからだってこうした事は起こるかもしれない。
でも幾度すれ違ってもまた一つに戻れる。

そうやって確かな愛をひとつ。
またひとつ。
紡いでゆく。



「あ・・・殺、あれ。」
「?・・・!」

ふとそれに気付いた犬夜叉は目線で促した。
見れば縁側の下に小さな雪の塊が三つ。
きっと帰り際りんが作ったのだろう。
雪兎。

殺は優しく微笑した。
そんな殺を見つめる犬夜叉。

その顔は穏やかで力強く逞しいいつかの父の顔に似ていた。


命芽吹く春はもうすぐ。












16P ( 完 )
 
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愛ひとつ

1P  2015/2/12 執筆
2P  2015/2/14 執筆
3P、4P  2015/2/20 執筆
5P  2015/2/22 執筆
6P、7P  2015/3/3 執筆
8P  2015/3/9 執筆
9P  2015/3/18 執筆
10P  2015/3/22 執筆
11P  2015/4/4 執筆
12P~16P  2015/4/19 執筆