「・・・酷ぇな・・・」
「ッ・・・」

鎧を外し着物の合わせを左右に拡げた犬夜叉は目にした傷に僅かに眉を顰める。
首から胸元に掛けバッサリと斜めに走る赤。
加えて深い刺し傷。
まだ血の流れるそこを犬夜叉はそっと舐める。
殺生丸の身体が一瞬痛みに強張ったのを感じると犬夜叉は顔を上げ、殺生丸をチラと見た。
そして上体を起こすと殺生丸の様子を伺うように見つめる。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

まるで気持ちを確かめるような、それでいてその眼は先への行為を促している。
拒絶する猶予を与えたのではなく合意を求めている。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

互いにやはり無言。
それなら肯定と取る。

目を合わせたのもつかの間、犬夜叉の熱い舌が傷をなぞる。

「っ・・・」

痛いのに癒されているように錯覚するほど熱い。

己は本当にどうかしてしまったのか。

「・・・ッ・・・ァ・・・」

・・・もう思考も抵抗も今更面倒くさい。

「・・・っ・・・」

多量の出血のせいだろうか。

きっとそう。

強引なくせに優しい指先。
重なる肌が熱くて。

受け入れて伴う痛みさえ次第に快楽と混じって感覚が麻痺してゆく。
揺さ振られて翻弄される。

好きなようにすればいい。
こちらも精々利用してやる。

昂る質量と激しい熱を体の奥に感じた刹那、意識が途切れた―――――――







どれくらい経ったのか。
もう月の浮かぶ夜空。
共に眠りに落ちていたが、抱えていた感触が腕から消えたことで犬夜叉は目を開けた。

「行くのか。」
「・・・・・・」
「・・・傷、もういいのか。」
「・・・・・・」

身形を整える殺生丸からの返事はない。

おそらく傷は癒えたのだろう。
毛皮も元の純白を取り戻し襟から覗く首の傷もほとんど消えている。

「殺生丸。」

犬夜叉は後ろから包むように殺生丸を抱き締める。

「・・・離れろ。」
「・・・」
「犬夜叉。」
「・・・いーじゃん。このままで。」

ドカッ

「ウッ!」

肘鉄を食らわされ、しばし身悶える犬夜叉。

「テメー!何すんだよ、治ったらこれかよ!」
「うるさい。」

犬夜叉は殺生丸の髪を掴もうとするが、その手は虚しく宙を切る。
殺生丸は犬夜叉に構うことなくスタスタと歩いてゆく。

「待てよ、此処に居りゃいいじゃねーか!」
「・・・・・・」

傷が癒えたのはこの地のおかげか。
注がれた体液によって妖力を得たからか。

行為の本当の理由も想いも殺生丸が犬夜叉に訊ねることはないだろう。
犬夜叉もまた口にすることはない。
この先も。
例え幾度体を重ねても。

互いにそれでいい。

でも  もしも少しずつ何かが変わっていくなら  それもいいかもしれない。


「殺生丸!」
「・・・」
「オイ!」
「・・・」
「殺生丸っ!」

犬夜叉の呼び掛けも虚しく、においは感じてももうその姿は何処にもない。

「・・・・・・」

大樹の隙間から差し込む僅かな月明かりに自分だけが照らされ、取り残されている。

「・・・チッ。・・・あのやろー、礼も無しかよ。」

独りごちる。
だがとんでもないことをしでかしたのは自分のほうなのだ。
今頃になって己の大胆さが怖くなる。

怪我人を襲うとか大概だよな、俺も・・・

「・・・ま、いっか。」

回復したのなら。

俺は俺のしたいようにして。
てめえは元気になって。

きっと次に会ってもお前はいつも通り。
涼しい顔で俺を見下ろすか無視。

それでいい。

・・・本当は朝まで一緒に居たかったけど。
無謀な望み。
べたべたされるの嫌いそうだもんな、お前。

「ふっ。・・・っとに気まぐれなんだからよ。」

振り返ることなく漆黒の森へ消えた後ろ姿。
手のひらを掠めすり抜けた髪。

「・・・・・・」

遠ざかる兄のにおいを感じながら犬夜叉も歩き出す。

込み上げる愛しさを今は緩やかな夜風に溶かして。










15P ()
 
back   



目次に戻る 

小説ページ(全作品目録)に戻る 

TOPに戻る 



憑依

1P  2015/11/24 執筆
2P  2015/11/29 執筆
3P  2015/12/5 執筆
4P  2015/12/18 執筆
5P  2015/12/21 執筆
6P  2015/12/30 執筆
7P  2016/1/12 執筆
8P、9P  2016/2/7 執筆
10P  2016/2/14 執筆
11P  2016/2/21 執筆
12P、13P  2016/2/27 執筆
14P、15P  2016/3/6 執筆

当方にしては珍しく弥珊要素が多く出た作品になりましたが全てはラストで
思いきり犬殺を書く為のプロセスです。
大部分はみんなで兄を心配するお話(笑)。そして兄もなんだか優しすぎる
ような・・・(笑)。
犬夜叉はたぶん初めは心配で兄に寄り添うだけのつもりでしたが、兄の弱
りっぷりに気が変わった。
傷口ペロペロはわんわんの本能。
その後の行為は治癒目的と性欲が混じった愛情なんじゃないでしょうか。