体が冷たい。
「・・・ゥ・・・」
水の感触。
意識が覚醒していくにつれ、体が水に浸かっているのだと気付く。
死神鬼は薄っすらと目を開けた。
辺りは暗く、夜なのだと分かる。
満月の光に照らされ煌々と輝く泉の水面。
どうやら己はこの泉で寝入っていたらしい。
確か交合の後女を殺し、この泉で水浴びをしていた。
その後――――――
甦るおぞましい記憶に死神鬼は身震いした。
「・・・・・・」
だが奈落の姿など何処にもない。
「・・・夢・・・・・・か・・・」
あんな事がこの身に起こり得るはずはない。
「フ、・・・クッ。」
馬鹿馬鹿しい。
死神鬼は嘲笑し、泉から上がろうとした。
だが、脚に力が入らず小さな段差につんのめり水中へと崩れた。
バシャンッ
「ッ!!・・・ッ、ゲホッ、ガハッ、・・・ッ」
すぐに立ち上がるが、その途端に激痛が走る。
「・・・ッ!!!!」
夢ではない。
陰部、腰、内臓の耐え難い痛み。
無様にも頭から水中へ倒れ込み、浅瀬で溺れかけるなど。
「・・・おのれ・・・ッ!!」
バシャッ!!
死神鬼は思い切り水面を叩いた。
バシャッ!! バシャッ!! バシャッ!!
「おのれ・・・ッ!!・・・奈落め・・・ッ!!」
死神鬼は錯乱したように水面を叩き続けた。
異常な性交で身体をメチャクチャにされ、明け方に意識を失ってから今に至るまで一日中死神鬼はこの泉で眠っていたのだ。
バシャッッ!!
「ハーッ、ハーッ、ハーッ・・・」
痛みと屈辱。全てに激昂し死神鬼はワナワナと震えた。
ザバ・・・
「・・・ッ・・・く・・・」
水辺の草を掴み、やっとの思いで泉から這い出る。
ゴポポ・・・ ビチャッ ビチャッ
「ッ・・・ゥ・・・」
四つ這いとなっている脚の間から溢れ零れ落ちる血の混じった粘液や精。
陰茎からも流れる血。
それを自らの目で見た死神鬼は殺気立つが欲望の餌食となった肉体は疲弊しきり、これ以上は動けない。
ともかく奈落に溜め込まされた毒液を体外へ出さねば身体は回復しない。
だが、苦痛を伴う排出の中で異変に気付く。
「ハーッ、ハァ、・・・!!?・・・ゥ・・・ッ!!」
突如、腹の中で何かが膨張し蠢き始めたのだ。
「アアッ・・・ハァッ、ハァッ・・・ゥグ・・・ッ」
それは腸壁を無理矢理押し拡げ、どんどん降りてくる。
「ク・・・ゥ・・・ッ!!」
見ればもう陰部の間から蛇の尾のようなものが出ている。
太い頭らしき部分は通過出来ずに狭い直腸内で暴れ、死神鬼は激痛に悶えるが自らその尾を掴み引き摺り出した。
「ウアアッ!!」
死神鬼の身体が鋭い痛みに跳ね、余韻に震える。
投げ捨てた蛇のような肉塊。
赤銅色のそれは不気味にビチビチと跳ねている。
グチャッ
死神鬼はそれを渾身の力で叩き潰した。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・ッ・・・奈落・・・ッ!!」
憎悪を滾らせ、目に入った己の武器を鋭く見据える。
そして這いつくばりながらも武器を手にすると怨恨による精神力だけで立ち上がりヨロヨロと服の置いてあるほうへ歩き出す。
だが、その傍にまたしても気配を感じ不覚にも体がビクと強張る。
生理的反応。死神鬼の精神がどれほど強靭でも身体は恐怖を拭い切れないのだ。
「・・・大丈夫かい?」
女の声。
服のすぐ傍に見知らぬ女妖怪が立っていた。
「・・・・・・」
「ふ・・・アンタ、随分酷い格好じゃないか。一体どうしたのさ。」
微かに嘲笑する女。
女が指摘するのも無理はない。
丸裸で武器を持った男がフラフラとこちらへ近付いて来るのだから。
足元の服に気付き取りに来たのだと分かったが、やはりただ泉に浸かっていただけではない。
むせ返るような血と精の匂い。よく見れば男の脚の間から止めどなく伝い流れている。
尋常ではない姿。
「・・・退け・・・」
「・・・って言われても、あたしはこの泉に水浴びに来たんだから。フン、その様子じゃどこぞの妖怪にでも掘られたってところか。クク・・・」
「・・・・・・」
「介抱してやってもいいよ、ほら・・・」
バシッ
伸ばされた手を死神鬼は叩く。
「失せろ・・・!」
「ッ・・・何だよ、あたしは泉に・・・」
「煩い!!殺されたいか、とっとと消えろ!!」
「ヒッ・・・」
死神鬼の凄まじい殺気に女は震え上がり、一目散に漆黒の森へと駆け出した。
「忌々しい・・・!!」
ドガッ!!
手にしていた武器で手近な木を乱暴に叩くが、脚から力が抜けガクンと膝を着く。
突然の衝撃と殺気に辺りで休んでいた小動物たちが逃げ出す。
服を掴む手が震える。
余力を使い果たし、もはや服さえ身に着けられない。
ほんの少しの所作さえ今の死神鬼には大きな負担となるのだ。
「・・・おのれ・・・」
奈落・・・・・・許さぬ。 決して許さぬ!!
だが・・・鬼蜘蛛・・・ただの人間(虫ケラ)が奈落などという化け物に変わった元凶は犬夜叉。
貴様があんな肉欲の権化を生み出したのだ。
闘牙・・・貴様への念が奈落を呼んだというなら、このような事になったのも全て貴様のせいだ。
貴様らとの因果さえなければ奈落を呼び寄せこんな醜悪な事態を引き起こすこともなかった。
何もかも全て貴様らのせい。
そして殺生丸・・・冥道残月破はわしの技。
どちらが真の使い手かはっきり知らしめてやる。
犬一族など根絶やしにしてくれるわ。
殺生丸と犬夜叉。
心身ともに存分痛め付け冥界へ葬ってやる。
そのあとは貴様の番だ、奈落。
貴様を血祭りに上げ必ず地獄へ落としてやる―――――――
壮絶な肉交によってズタズタになった内臓。
「・・・ッ・・・ゥ・・・――――――」
報復に燃え上がる憎しみを抱きながら死神鬼の意識は次第に薄れていった。
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