渇愛    8P




 

俺は、殺生丸の首筋に舌を這わせた。

・・・殺生丸は何の反応も示さない。

試しにゆっくりと顔を近付け、己の唇でその唇に軽く触れてみた。
 やはり何の反応もなかった。

「・・・・・・どうした?・・・もう抵抗しないのか。」
「・・・・・・」
「・・・暴れたっていいんだぜ。」

 出来ないのを判っていて、こんな意地の悪い事を言う俺は本当に最低だと思う。

「・・・初めから大人しくしてりゃ、ここまでの事にはならなかったんだぜ。」
「・・・・・・」

 ・・・何故、そんな眼をしていられる?
 何故そんな眼で俺を見る。

「・・・何で黙ってる。・・・手も指も折られて、物言う気力も失せたか。・・・いつもの半妖だとか蔑む口はどこいったんだ?・・・なぁ」

俺は殺生丸の顎に軽く手を添えた。

「・・・・・・満足か。」

 ・・・何・・・?

「・・・随分、余裕な口ぶりなんだな。・・・これから自分がされる事、分かってんのかよ?」
「・・・・・・言いたいことはそれだけか。」

 ・・・完全に抗う術を塞がれておきながら、なおも上のほうから俺を見てくる。
 今、劣勢なのは己のほうだというのに。
 何か策でもあるのか?・・・いや、無い。こいつの体力はもう限界のハズだ。

 俺は上体を起こし、殺生丸の長い白銀の髪を掬い取り口付けをし、放した。
 美しい髪はなめらかに零れ落ち、床に広がった。
 そして俺は、先までの争いで乱れ大きく開けている着物の合わせから手を滑り込ませ、もう片方の手で袴の腰紐の結びを解いた。
 だがそこまでしておいて、俺はなんとなく手を止めて殺生丸の顔をチラと見た。
 俺は脚にはとくに外傷を加えていない。・・・蹴りの一発でもきそうなものだが。
 それもない。
 動けず、ここ何日もじっとしていたくらいだから、脚も傷を負っていたのだろうか?
 否、しかし、さっきはその脚も暴れ、俺は蹴りをくらわぬよう懸命に押え付けていた。

「・・・いいんだな。手加減しないぜ。」

 自分でも、この期に及んで我ながら無意味な事を言ったと思う。
 でもやっぱり、どこかで罪悪感あり、合意を得たかったのだろう。

「・・・・・・どうなと好きにするが良い。」

 ・・・諦めている。
 奴が先に折れた。
 ハッキリとそれが分かった。

  

 ――――――― この時、本当は止めても良かった。

 もう勝負はついたのだから。躊躇や戸惑いが一瞬よぎった。
 トリカエシノツカナイコトニナルと・・・。僅か冷静を保ったもう一人の自分が、ヨセ と強く叫ぶのが分かった。

 だけど、後に引けなかった。
 ここまできて、想い焦がれた相手を前に、もはや何もせずには引き下がれなかった。

 

 舌を強引に絡み取り濃厚な接吻をしながら、俺は無心に奴の衣を剥いでいき、頭から足の先まで何度も口付けた。
 美しい白い身体に付いた赤を消すように舌を這わせていった。
 けど、傷にはなるべくこれ以上の負担をかけないように。

 
 相手は完全に諦めていた。
 もうどんな事をしても一切抗おうとはしなかった。
 途中、痛みに呻く小さな声や堪えかねた微かな喘ぎは聴こえたが、文字通り無抵抗だった。
 初めて体内に精を放った後も、愛撫をしては脚を開かせ貫いた。
 

飽き足らずに俺は何度も殺生丸を抱いた。

それでも、奴は最後まで微塵の抵抗も哀願もなかった。
 だが―――――――・・・。

だが、殺生丸は屈辱に震え、その瞳の奥は業火の如く怒りの炎で燃え上がっていたように思う。

 

 

 

 

――――――――――――そして今・・・目の前には、微動もせず横たわる身体がある。

俺は、あの兄の全てを力でねじ伏せた。
 誰もが冷徹冷酷と慄き恐怖する、最強の存在。

・・・非情なのはどちらだ?

動けぬ相手を欲のままに貪り尽くした。
 冷血非道な惨いやり方で行為を強いた。
 勝手に募らせた思慕と泥ついた物思いで奴を汚した。

己の何もかもが、いじましい。

 俺がやった事は・・・怪我を負わせ、付き纏い、陵辱した。それだけだ。
 ・・・何一つ叶っちゃいない。

 本当に欲しかったものはもう永遠に手に入らないのだろう。
 この先に成就はない。

 何もかもが虚しい。

 この小屋の惨状が、自分とは切り離された遠い空間のようにぼんやり見える。
 頬を雫が伝う。 


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