月の綺麗な夜だった。
ろくに睡眠を取っていなかった俺は、少しの間船を漕いでしまっていた。
だが、ふと気配を感じて、ハッと目を開けた。
!!
俺は咄嗟に鉄砕牙の柄に手を掛けた。
・・・が、それはよく知った者の姿であった。
強大な妖気。研ぎ澄まされた真剣のような鋭い眼差し。二つの金の光。
白銀の髪。
頭の天辺から足の先まで完璧なる美貌。
すっと立ったその姿は、月光を浴びて全身が輝いて見える。
「ッ―――・・・」
俺は何かを言いかけたが、何も言葉が出なかった。
相手はじっとこちらをただ、見据えていた。
殺生丸は、俺から少し離れた所に立っていた。
遠目にも着物や鎧はまだボロボロだったが、動ける程には回復出来たようだ。
腰には天生牙も携えている。
・・・良かった。
俺は、自分のした事も忘れ、そんな事を思った。
でも、本心だった。
それ以外の言葉は何もなかった。
殺生丸は、この時そんな俺の胸中を、どこまで見抜いたかは分からない。
その表情からは、何も読み取れなかった。
ただ、攻撃を仕掛けて来る様子はなかった。
次にはくるりと背を向け、山林の奥深くへと姿を消してしまった。
「!・・・ッ」
俺は、やはり何も言えなかった。
引き止めたかった訳じゃない。
今更、弁解も謝罪もない。
ただ・・・、・・・殺生丸・・・
・・・月の光と星の瞬きが夜の森には煩くて・・・眩しい。まるで幻影だ。
今、俺は奴の幻でも見たのだろうか・・・
俺は、殺生丸が横になっていた洞窟を覗いた。
覗いた奥にはもう誰も居ない。
・・・そこに居た香りだけを残して。
俺は、もう一度殺生丸の消えた山林を見た。
何も言わなかった殺生丸。
不思議と殺意も敵意も感じなかった。
赦される日は来るのだろうか―――――・・・
闇に消えた白い姿と長い白銀の髪から放たれた輝きが、いつまでも残像のように残っていた。
光芒のように。
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