光芒    3P




 

 月の綺麗な夜だった。
 ろくに睡眠を取っていなかった俺は、少しの間船を漕いでしまっていた。
 だが、ふと気配を感じて、ハッと目を開けた。

 !!

俺は咄嗟に鉄砕牙の柄に手を掛けた。

・・・が、それはよく知った者の姿であった。

 強大な妖気。研ぎ澄まされた真剣のような鋭い眼差し。二つの金の光。
 白銀の髪。
 頭の天辺から足の先まで完璧なる美貌。
 すっと立ったその姿は、月光を浴びて全身が輝いて見える。

「ッ―――・・・」

俺は何かを言いかけたが、何も言葉が出なかった。
 相手はじっとこちらをただ、見据えていた。

殺生丸は、俺から少し離れた所に立っていた。

遠目にも着物や鎧はまだボロボロだったが、動ける程には回復出来たようだ。
 腰には天生牙も携えている。

・・・良かった。

俺は、自分のした事も忘れ、そんな事を思った。
 でも、本心だった。
 それ以外の言葉は何もなかった。

殺生丸は、この時そんな俺の胸中を、どこまで見抜いたかは分からない。
 その表情からは、何も読み取れなかった。
 ただ、攻撃を仕掛けて来る様子はなかった。
 次にはくるりと背を向け、山林の奥深くへと姿を消してしまった。

「!・・・ッ」

俺は、やはり何も言えなかった。
 引き止めたかった訳じゃない。
 今更、弁解も謝罪もない。
 ただ・・・、・・・殺生丸・・・

 

 ・・・月の光と星の瞬きが夜の森には煩くて・・・眩しい。まるで幻影だ。
 今、俺は奴の幻でも見たのだろうか・・・

俺は、殺生丸が横になっていた洞窟を覗いた。
 覗いた奥にはもう誰も居ない。

・・・そこに居た香りだけを残して。

俺は、もう一度殺生丸の消えた山林を見た。

何も言わなかった殺生丸。
 不思議と殺意も敵意も感じなかった。

赦される日は来るのだろうか―――――・・・

闇に消えた白い姿と長い白銀の髪から放たれた輝きが、いつまでも残像のように残っていた。
 光芒のように。

 

 

 

 

 

 

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