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  烈火の如く 〜親愛〜

 




 あれから長い時間が過ぎた。

 俺たちにとっては、僅かな時間かもしれないが。
 あの出来事さえ、今となってはもう瞬きにしか過ぎないような微々たる時だ。
 だけど俺は、あの――――――・・・殺生丸を抱いた日の事も―――・・・、共に過ごした日々を、片時も忘れた事はない。


 あれから色々な事があった。

山中の山奥で別れた後すぐ、殺生丸はりんという娘を拾った事を知った。
 後で分かった話だが、あの天生牙で初めて命を救ったのがその娘だったという。癒しの刀である天生牙を、殺生丸が使いこなせたというのも驚きだが、その娘は人間。人間の命を殺生丸は助けたのだ。
 しかもそれは、あの時の童女だ。
 ・・・俺は驚いた。
 妖怪である殺生丸に何の恐れもなく近付き、介抱した人間の小娘。

それから、その童女・りんを連れて奴は旅をしていると知った。
 どういう経緯かは知らないが、奴と行動を共にする者が増えていく事に、俺は正直心のどこか複雑な思いでいた。

あの洞窟での事を最後に、もう暫く殺生丸と顔を合わせる事も無いと俺は思っていたし、自分の犯した罪からそれを承知していた。
 だが、意外にもすぐ顔を合わせる事になった。
 奈落に関わった事で、敵を同じくする事が増えたからだ。
 あの後・・・闘鬼神の件で初めて顔を合わせた時、俺は動揺したが、奴には少しの動揺も無い風だった。
 だから俺はその後、奈落の件や、・・・・・・そもそも俺と殺生丸の仲違いの原因・・・忌まわしい根源となってしまっている、親父の遺した刀・鉄砕牙の件で決着を付ける時も、闘いに集中する事が出来たんだ。


お互いに本当に色々な出来事があった。

 俺にとっては・・・こんな俺を愛してくれた、桔梗との別れ。
 人間の心・・・温かさを教えてくれたかごめも、四魂の玉を滅し役目を終え、元の時代へと戻り、もう二度と井戸は繋がらなくなってしまった。
 でも、得たものも沢山ある。
 変わらずにどんな時も傍に居てくれた仲間。そして今も。 

・・・殺生丸だって・・・否、殺生丸のほうが変わった。

 人間嫌いは相変わらずだが。・・・闘いの中でりんが巻き込まれれば、どんな危険が身に迫ろうと、必ず救い出し。琥珀が宙吊りにされた時は、片腕しか無いその大切な右腕を犠牲にし、ズタズタに貫かれ。俺の仲間たち・・・人間を救う為援護し、自分一人で立ち向かい、鋼のような触手に胸を貫かれ、窮地に陥った。

 思えばいつだって奴の助けがあった。

 そして結果、奴は失ったはずの左腕と、己自身の至上の刀・爆砕牙を手に入れた。

何かが―――――――・・・変わった。




それからまた長い年月が過ぎた。

全ての事が落ち着き、奈落との闘いの事ももう遠い過去のように忘れさられた。
 俺は決まった住居を持っていなかったので、楓の村に身を寄せ、弥勒と共に妖怪退治の仕事や村の用心棒などをしている。
 本当は・・・奈落が消滅し、かごめが元の世界へ帰った後、また旅に出ても良かった。
 でも旅をする目的も無かったし、俺には戻る場所もない。・・・それに楓の村を離れる気にはなれなかっ
た。

 ここには、りんが居る。
 りんが居る限り、殺生丸に会える。

奈落の件が片付いた後、奴はりんを楓ばばあに預けた。どちらが、誰が言い出してそうなったかは分からないが、少なくともりん本人ではない。
 りんは片時も殺生丸と離れたくないようで、「ずっと一緒に居たい」と終始ゴネて、奴を困らせてい
た。

 その時にきっと奴はりんに、「すぐまた来る」とでも約束をしたのだろう。
 りんを楓ばばあに預け離れた後も、殺生丸はりんの着物やら身の回りの物を持って、ちょくちょくと現れていた。

 今でも一月か二月に一度は、必ず顔を見せにやって来る。
 無論、長居する事も無く、用事が済むといつものようにすぐ行ってしまうが。
 ・・・俺には理由なんてどうでも良かった。
 とにかく、ここにずっと居れば殺生丸に会う事が出来るのだ。



そしてこの日も、殺生丸はやって来た。

 殺生丸はりんとの僅かな時間の為だけに来る。
 そして俺など見えていないかのような素振りで、りんとの会話だけに集中する。りんもその時ばかりは殺生丸以外は何も見えていないようで、奴との会話に夢中だ。もっとも、ほとんどはりんが笑い、一方的に話し、それに対して殺生丸は二言三言、言葉を返すだけなのだろうが・・・りんは嬉しそうに幸せそうに笑う。
 まるで・・・まるで、恋人同士みたいに。

俺は胸がざわりとした。

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