烈火    14P




 

「ッ・・・!!」
「・・・殺生丸・・・っ」

 犬夜叉の先端が中に入った時、殺生丸の身体がビクッと強張った。
 痛いのだろう。
 いくら愛撫を施し唾液で濡らしても、そこは本来何かを受け入れるべきでない箇所。
 筋肉で絞られた腔が弛緩する事はない。

 犬夜叉の肌を傷付けない為に、地に手を這わせ雪を掴む兄の手。犬夜叉はその手首を取り、自分の腕へと押し当てた。
 犬夜叉の想いが兄に伝わる。
 痛みなら共に。

 犬夜叉は、殺生丸の奥深くへと腰を進めた。

「アアッ・・・う・・・ッ!!」

 狭く閉ざされた入口を裂かれ、猛るそれに内臓を圧迫される。
 でもこの瞬間は他の何も見えなくなる。考えずにいられる。忘れられる。
 この痛みだけを感じていられる。

 苦痛にを寄せ、目を閉じている殺生丸。痛みに睫が震えている。
 その痛みが犬夜叉の腕に伝わる。
 鋭い爪が食い込む犬夜叉の皮膚は裂け、腕からは血が流れた。

 それでも一つに繋がりたい。
 互いの想いが重なる。

 この体がずっと欲しかった。
 この肌にずっと触れたかった。


 犬夜叉は腰の律動を一層速め、激しく殺生丸を揺さぶる。

「殺生丸・・・ッ!!」
「・・・アッ・・・ア・・・犬、夜叉・・・ッ・・・!!」

 堪えた喘ぎの混じる苦しげな息遣い。
 滅多に牙を覗かせる事の無い兄が、牙が見える程口を開け自分の名を呼ぶ。

 犬夜叉は再び殺生丸の自身を手に包んだ。
 上下されるうち、痛みを越えて抗えぬ別の波が押し寄せてくるのを感じ、殺生丸は悶えた。それと同時に己の中で犬夜叉の質量も増し、熱の解放を待って一層硬く張り詰めていく。
 痛みと快楽の狭間で揺れる。

 犬夜叉は殺生丸の腰を強く掴み、己の全てを埋め込んだ。
 限界の近い犬夜叉の息もいよいよ荒い。
 求め合う吐息だけが辺りに響く。
 そしてもう一度深く打ち込んだ時、殺生丸の体内で犬夜叉の飛沫が弾けた。
 昇りつめ、達したのは互いに同時。


 緩やかな川の流れる音。
 辺りは再び元の静寂に包まれ、しんしんと降り積もる雪の中、二人は重なり合い横たわっていた。

 殺生丸の上に覆い被さる形で息を整えていた犬夜叉は、三日月の浮かぶその額にそっと自分の額を寄せ
た。

「・・・・・・大丈夫か?」
「・・・・・・」

 やはり負担が大きかったのか。
 犬夜叉を受け入れ、その身の内に精を注ぎ込まれた殺生丸は未だ苦しげな面のまま、半ば朦朧としてい
る。


「・・・殺生丸・・・」
「・・・・・・」
「・・・手荒にしたつもりはなかったんだけどよ・・・」

 無言でいる殺生丸に口付けた。
 すると薄っすらと殺生丸は眼を開け、犬夜叉を見つめた。
 そして殺生丸からは思いも寄らぬ答えが返ってきた。

「・・・・・・足らんな。」

 情事の後には不自然過ぎる程、冷めた眼差しで自分を見る兄。

「・・・所詮、半妖はこの程度か。」

 あれ程激しく求め合い、抱いたのに“この程度”とは。

「殺生丸・・・・・・」
「・・・・・・」

 だが、犬夜叉は冷静だった。
 殺生丸の冷たい眼差し。その奥に見えるものは。

「・・・ナニ、誘ってんのかよ・・・?」
「・・・・・・」
「・・・・・・いいけど、お前耐えられんのかよ。」
「・・・見くびるな。」

 その言葉を聞くや否や、犬夜叉は殺生丸の前髪をグシャリと鷲掴み、顔を上向かせた。

「ツッ・・・、!・・・ン・・・ッ」

 殺生丸から抗議の言葉が出る前にその唇を塞ぐ。
 互いの舌を絡ませ、抱き合いながら息つく暇も無い程接吻を交わす。

 長い口付けから先に唇を離したのは犬夜叉だった。

「・・・続きはあそこでだ。」

 そう言うと犬夜叉は脱ぎ散らかした自分達の衣類を適当に掻き集め、自分の赤の衣で殺生丸を包み、横抱きに抱え上げた。

「覚悟しろよ。後で待ったはナシだ。」
「・・・・・・先にお前が根を上げる。」
「・・・ふ、俺の知った限りじゃ、こういう事に関しちゃお前の方が体力ねえみてーだけどな。」
「・・・・・・ならば、試してみろ。」

 僅かに口の端を吊り上げ不敵に笑う殺生丸に、犬夜叉も余裕の態度。

「・・・後悔すんなよ。」

 そして犬夜叉は飛ぶように駆けながら、山を下った。


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