烈火    3P




 


 犬夜叉は背後の死神鬼のただならぬ妖気と殺気を感じ、すっと兄から体を離した。

「・・・帰るぞ。殺生丸。」

 そう言うと、犬夜叉はザッと立ち上がった。
 振り返り、鉄砕牙を抜き死神鬼と対峙する。

「・・・・・・そういうワケだ、死神鬼。俺は早くこいつ連れて帰んなきゃなんねえんだよ。今度こそ、たたっ斬る!」
「・・・・・・」

 犬夜叉・・・何故、正気に戻った?
 鉄砕牙を扱えない貴様などただの狂犬。貴様を殺し、殺生丸はわしの・・・・・・
 ・・・全てを失くし抜け殻になった殺生丸を、玩具として壊れ果てるまで傍においてやろうと思ったのに。
 あと一歩というところで・・・やっかいな半妖め・・・・・・ッ!!

「・・・今更何をほざいてる。・・・つい今まで兄を喰らおうとしていた半妖が。」
「ッうるせえ!!・・・外道な画策しやがって・・・よくも・・・赦さねえ!!」

 犬夜叉は死神鬼に向けて“風の傷”を放った。
 死神鬼はすんでのところで犬夜叉の攻撃をかわしたが、僅かに掠り、左顔を覆っていた仮面はバラバラに砕け散った。
 左八分失った顔が露になる。

「・・・・・・フッ・・・そんなに悔しいか?兄を寝取られたのが・・・思っていた以上に快かったぞ。わしの下で喘ぎ悶える殺生丸の姿は。」
「てめえーーーッ!!!!」

 犬夜叉は激昂し、死神鬼に“冥道残月破”を放った。
 だが、死神鬼はそれを避けながら同時に本来の己の武器で同じ技、“冥道残月破”を放った。
 犬夜叉の放った巨大な“冥道残月破”の三日月は、この部屋の結界を破壊し、死神鬼の真円を描いた“冥道残月破”をものともせず、呑み込んだ。
 やはり今の鉄砕牙に死神鬼が敵うはずはない。

 分かってはいたが、死神鬼は再び己の眼でその現実を見、怒りに震えた。
 計り知れない憎悪と殺気。
 死神鬼の顔にはもうこれまでの冷めた笑みはなかった。残されたその右眼には血に飢えた妖怪の本性が表れている。


 ・・・・・・わしが敵わない?・・・こんな犬どもに。

 分かっている。
 だからこそ長い年月をかけてこの策を講じた。

 なのに、何故だ。

 貴様ら兄弟の間に何があるのだ。
 犬夜叉になら殺されてもよい程、想っているのか。
 あれほど血に狂っていた犬夜叉を正気に戻したのも、殺生丸。
 闘牙とあの女の血を受け継いだ化け犬一族の直系・・・

 人間の母親を持つ弟など、赤子のうちにさっさと人間の母親もろとも斬り捨てればよかったのだ。
 冷酷に残酷に。
 さすれば見逃してやろうと思った。

 それが・・・出来損ないの半妖を生かしておくばかりか、犬夜叉を強きへと導いたのも殺生丸。貴様ではないか。
 武器にもならぬ天生牙など捨てればよいものを、後生大事に腰に抱えて・・・

 殺生丸・・・
 貴様は生まれてくるべきではなかった。
 貴様の存在が全てを惑わし狂わす。

 犬夜叉・・・貴様もだ。
 鉄砕牙など手にする前に、野垂れ死んでいればいいものを。のうのうと・・・

 犬の分際で。虫唾が走るわ。

 化け犬の血など滅びればよい。
 贖うべきは闘牙・・・貴様なのだ!!
 だから貴様の遺したものは全て破壊する。

 犬夜叉と殺生丸・・・・・・“二人”になどさせてやらぬ――――――――――――!!


「死ね!!」

 死神鬼は犬夜叉に向けて、今度は複数の“冥道残月破”を放った。

「ッ・・・無駄だ、てめえの技は効かねえ!!」

 犬夜叉も再び“冥道残月破”を放つ。

 やはり犬夜叉の放った巨大な三日月は、死神鬼の“冥道残月破”を易々と呑み込んでいく。

 だが、瞬間、犬夜叉は死神鬼が何かをこちらに投げたのが分かった。

 赤黒く鋭い光を放つ物。
 それは短剣。
 そう、殺生丸を刺し捕らえた、あの時の刀だ。殺生丸でさえ解毒出来ぬ猛毒を塗り付けた刃。
 犬夜叉はその事を知らない。

「今更、そんなもんでどうしようってんだ!!叩き折ってやるぜ!!」

「・・・・・・」

 犬夜叉は鉄砕牙を構え、飛んでくる短剣に向かって駆け出した。
 だが、犬夜叉は死神鬼の口端がニヤリと歪むのを見た。

 !?・・・・・・何を笑って・・・
 !!・・・ッ、まさか・・・ッ!! 

 瞬間、刀の軌道がずれている事に気が付いた。 
 同時に刀は見事に犬夜叉の脇をすり抜ける。

「!!ッ・・・」

 自分の後ろには殺生丸がいる。
 初めから殺生丸を狙ったのか・・・!!


  3P
  ← back    next →  






小説目次に戻る