略奪    4P




 

「相変わらず・・・というか。」

死神鬼は嘲るような笑みを浮かべながら、殺生丸の傍に寄り跪き、言葉を続けた。

「やはり青いな、殺生丸・・・わしがその格好だけの事を言っていると思っているのか。・・・よく考えてみるが良い。わしが何故、あの山に貴様が居る事が分かったと思う。・・・言い方を変えよう。貴様ら兄弟に負けたわしが、例え甦ったからといって何故再び貴様の前に姿を現したと思う。・・・しかも貴様の妖力がいよいよ弱まっているという時に。・・・運命の悪戯か?否、違う。」


 ―――――・・・まさか―――――と、殺生丸は思った。

「・・・貴様・・・・・・」
「・・・そうだ。わしがお前の妖力を封じているからだ。」
―――――・・・!!」

殺生丸はその事実を前に、ただ驚き、何も言えなかった。

でも、ならば全て説明が付く。この何ヶ月かの体調の変化・・・それを何故、この男が知っていたのかも。
 だが、どうしてそんな事がこの男に出来る。

「・・・・・・わしは、もとより死んではおらぬ。貴様ら兄弟に冥界へ葬られたが、一族の中でもたった一人だけが受け継ぐ冥道残月破は、冥界を司る力を利用しての技。例え冥界へ入っても、脱する事は可能。それに皆と同じにわしも、心臓を貫かれるか首を落とされぬ限りは死なぬのでな。」
「・・・貴様の身の上話などどうでも良い。甦ろうが、そうでなかろうが・・・興味は無い。だが、この私の前に再び姿を見せたという事は、それなりの覚悟の上であろうな!」

 殺生丸は毒爪を死神鬼に振りかざした。
 すんでのところで死神鬼はかわし、その腕を掴んだ。

「・・・このような事、無駄だ。・・・貴様には毒爪の妖力も今や使えまい。もっとも貴様自身が毒に侵され、今の一撃だってやっとであろう。クク・・・」

 嘲笑する死神鬼・・・殺生丸は、掴まれた腕の強さにあの夜の犬夜叉が重なり、思い切り振り解いた。

「・・・ッ気安く触れるな・・・!汚らわしい・・・」
「・・・ふん・・・まあ、待て。話しはこれからだ。」
「・・・・・・」
「わしはな・・・冥界より魔界へと続く空間の亀裂を見つけ出し、自ら魔界へと身を投げたのだ。・・・魔界は邪気で溢れかえっており、魔の巣窟であった。魔物は妖怪とは違う。奴らにはしかないのだ。そこでわしは魔羅王と出会い・・・取り引きをした。術の力を借りる為にな。それこそが殺生丸、お前にかけた呪いだ。」 
「・・・・・・貴様の話など信用出来ぬ。貶める為の戯言であろう。」
「・・・強情だな。・・・それでこそ崩し甲斐があるが。」

死神鬼は、余裕の笑みで殺生丸の髪を掬い梳いた。

「・・・貴様を冥界へ葬ってから、どれだけの年月が過ぎたと思っている。術をかけるならば、もっと早く出来たであろう。」
「・・・呪いとは・・・姿見えぬ相手に、呪詛だけで何かしらの力をもたらすもの。・・・並の念では術は効かぬ。相手が強ければ強い程にな。」
「・・・ふっ・・・では、こそこそと呪いとやらをかけなければ私には敵わぬと?・・・そんなものに頼る程貴様は弱いという事だな。」
「・・・どう取ろうが構わん。貴様は今わしの手中にあるのだからな。」
「・・・私の妖力を抑えてどうする。貴様に何の得がある。それとも私を餌にでもするのか。」
「・・・少しづつ肉を削ぎ四肢を捥いでか?・・・クッ・・・それも良いな。」

 まともに答える様子の無い死神鬼。
 殺生丸は、決定的に自分が劣勢なのに相手は一向に自分を殺す訳でもなく、且つ身ぐるみを剥がされた襦袢一枚の格好で死神鬼と論議しなければいけない事に苛々していた。

「・・・下衆が。」
「わしは悪魔ではないが妖怪なのでな・・・慈悲の心など無い。・・・が。貴様を喰らうのではわしは満たされん。そんなものでは足りぬわ。」
「・・・・・・」
「・・・わしはこの日を待ったのだ。ずっとな。」
「何が言いたい・・・」
「・・・この術を完成させるには、貴様の言う通り長い時間を要した。魔羅との契約は・・・強い妖力を持つ妖怪の血肉を献上する事。それが術を強める事に繋がると判ったのでな。・・・現にすぐに呪いをかけても貴様には効かず、呪い返しを受けた。そうして長い年月を掛けて魔羅の力を強めた事で、魔羅の血で出来た呪いの邪坤石もその力を増した。いよいよの時を迎え、わしは貴様の姿を探した。・・・そして雪の中、山を行く貴様を見つけた。」     ※邪坤石(じゃこんせき)・・・オリジナル設定の悪魔の呪い石


 りんが亡くなり、墓前で犬夜叉と別れたあの日か。と、漠然と殺生丸は思った。

まさかあの日から自分が監視されていた上、こんな術までかけられるとは夢にも思わなかった事態だ。


「わしは邪坤石を奉り、念を懸けた。・・・どのような想いであっても、強く心に思う相手に程、この術は有効・・・殺める事、封じる事、相手の力を無力化出来る・・・いわば呪詛。急激に仕掛けるよりも時間を掛けて施した念の方が強力。最大の効力を引き出せるのだ。だが、強大な妖力を持つ貴様を殺す事は不可能。生半可な術をかければ呪い返しを受け、己の命が危うくなるからな・・・妖力を抑え込むのが限度であった。」「・・・・・・つまり、念願が叶ったというわけか。」
「・・・そうだ。石は、念を込める程にヒビ割れていき・・・やがて時満ちて消滅した。そうして、すっかり弱った貴様を見つけたという訳だ。」
「・・・ずる賢い悪知恵と小道具で随分と手の込んだ仕掛けをし、私を捕らえた挙句・・・思い通りに事が運んだ自慢話をする為に私を生かしておいたのか。」
「・・・・・・捕らえた理由、か・・・・・・その前にわしも訊きたい事がある。・・・貴様から離れては居るが、犬夜叉の気配があった。・・・貴様を監視しながら気付いたが・・・貴様、犬夜叉を避けているな?」
「!・・・・・・知らんな。」
「・・・とぼけるか。・・・だが誤魔化そうとも無駄だ。わしも鼻は効くのでな・・・」
「・・・・・・」
「・・・殺生丸・・・貴様、あの半妖に技を吸収されたらしいな・・・貴様に弟に技を譲る義理などないように思ったが。兄弟の情にでも目覚めたか。・・・それとも貴様の親父がわしから技を奪い取ったように、あの忌々しい鉄砕牙に強奪されたか?」
「黙れ。・・・・・・相変わらずよくしゃべる死神だ。私の妖力を封じ・・・聞きたくもない身の上を語り・・・貴様の目的は一体何だ。」
「・・・・・・貴様を貰う。」
「やはり目的はこの殺生丸の命か。」
「命ではない。」


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