「では、妖力か。・・・ふ・・・貴様に器は無い。」
「・・・“器”・・・?・・・ククク」
「・・・・・・」
「・・・器はある。貴様が・・・この死神鬼の積年の雪辱をその身に受けるのだ。」
「・・・何・・・?」
「貴様、”復讐”と言ったな・・・そうだ・・・闘牙にこのわしの顔と技を奪われ・・・今度は息子に冥界へ葬られ・・・わしはわしの一族から蔑まれ・・・」
殺生丸を見る死神鬼の眼は、冷酷な光を宿し、獲物をしたたかに見定める凶暴さを秘めた猛禽類のようだった。
死神鬼は殺生丸の髪を引き、己の唇と相手の唇が触れ合いそうな程に顔を寄せた。
「・・・っ寄るな!」
顔を背けた殺生丸を、死神鬼は乱暴に床に押し倒し、跨った。
殺生丸は強く頭部をぶつけ、一瞬景色が歪み相手の輪郭がぼやけた。
「・・・貴様、親父の面影があるな・・・」
想像も出来なかった死神鬼のこんな行為と、予想のつく己の末路に殺生丸は焦りを感じた。
毒のせいで痺れ震える手で、死神鬼の肩を押し、相手の体が自分にそれ以上近付くのを防ごうとするが、死神鬼は構わずに殺生丸の襦袢の裾を払い、手を入れた。
瞬間に嫌悪と憎悪の戦慄が、殺生丸の身体を突き抜けた。
「・・・死神鬼よ・・・ッこのような事・・・っ」
死神鬼の手付きは機械的なまでに愛が無く、身体を弄る。
「ッ・・・、」
一瞬出掛かる声を、殺生丸は堪えた。
“止めろ”とか”嫌だ”とか、そんな声は出したくない。屈服したくない。それに、この男には無意味であろうという事を察したからだ。
犬夜叉との行為の記憶も甦った。
あの時は・・・犬夜叉に対しては全身全霊で抗った。血を分けた弟・・・憎く蔑みの半妖・・・あんな行為は例え死んでも許すまいと思った。
だが、こんな場所でこんな男に屈して命を落とす事など自尊心が赦さない。
かといって、打開する術が無い。
こんな身体では、この危機を・・・この身に降り掛かろうとしている被虐から逃れられない。
おそらく抗ったところで、無駄に血を流すだけ・・・挑発して死を望んでも同じ事。この男は自分を殺しはしないし、抵抗しても相手の加虐を煽るだけ・・・
この男は犬夜叉とは違う。冷静だ。
「ツ・・・ッ!!」
ふいに、死神鬼の指が己の中に入った。
狭い入口から奥へと深く指を埋め込まれ弄られる。遠慮無しに指は増やされ、中へ捻じ込まれた。殺生丸が痛みを感じていようと全く構わずに行為は続けられる。
殺生丸は思った。―――――・・・犬夜叉とは違う。死神鬼は、自分を求めて欲している上で、この行為をしている訳ではない。と。
“ 復讐 ” ・・・
自分はあくまで苛虐の対象なのだ。
はっきりと分かる程に手荒なやり方で体中を弄られる。
・・・犬夜叉は・・・激しくはあったが、熱情的で自分を欲しているのがよく分かる行為だった。
比べるものでもないが、殺生丸は死神鬼の愛撫と呼ぶにはあまりに凶行で乱暴な扱いをその身に受けながら、自分を追っているであろう犬夜叉の事がふと頭をよぎった。
だが、すぐに犬夜叉への思考は掻き消えた。
「!!アアッ・・・ッ・・・っ」
死神鬼の残酷な欲望の猛りが、殺生丸を貫いたのだ。
「・・・加減はせぬ。力を抜いた方が良いぞ・・・クク・・・」
「・・・ッツ・・・」
激しさを増す強い律動に揺れながら、殺生丸は声を殺して耐えた。
せめて床を手で引っ掻ければ、痛みの発散にまだ気も紛れたかもしれないが、毒のせいで体中痺れ、手足は特に力もろくに入らない。
やっかいな事に痛覚や肌、皮膚感覚は麻痺していないので、殺生丸が感じる負担は相当なものだ。
「・・・っ喚け、殺生丸・・・!」
「・・・・・・ッ」
両者息が上がってきているが、殺生丸は絶対に屈しまいと声を押し殺し続けた。
「・・・ふっ、貴様が追い詰められていく様を見ているのは楽しかったぞ・・・」
「・・・・・・」
「・・・どうだ、誇示していた自尊心と強大な妖力を他者に抑止される気分は。」
「・・・・・・」
「負けを認めろ・・・わしに赦しを請え。」
言いなりになどならない。
だが、挑発したとて、この男は加減を知っている。
自分を責め殺しはしないだろう。
・・・気が済めば殺すのだろうが。ならば、早くこの行為を終わらせたい。
「・・・戯れ言は終いか。」
「フン・・・どうやら犬には躾が必要なようだな。」
言うが否や、一層激しく深くへ突き上げた。
「アアッ!!・・・ッう・・・ッ」
衝撃に堪らず殺生丸から声が漏れ、繋がった部分からは脚へと血が止め処なく伝っているが、そのまま死神鬼は官能の渦へと激しく昇りつめ、達した。
趣向なのか、殺生丸の襦袢は脱がされずそのままであったが、襟元も裾も乱れ開けて白かった上物の布地は赤く染まっている。
「・・・もっと乱れ狂うかと思ったぞ・・・気高く、他人の介入を拒む貴様なら。」
既に呼吸も落ち着きを取り戻している死神鬼は、殺生丸に跨ったまま嘲りの笑みを浮かべて殺生丸を見下ろした。
「・・・・・・」
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