りんはこの晩、高熱を出し、それから容態は悪化の糸を辿った。2、3日もその状態が続き、急激な体調の変化を前に、俺たちは成す術もなく祈るしかなかった。
そしてりんは、亡くなった。
その最期はやはり、微かな笑みを浮かべているような顔だった。
雪の降る、静かな夜だった・・・
誰も、何も殺生丸に声を掛けることは出来なかった。
俺は縁側から出て行き、雪に突っ伏して泣いた。
それから数日、りんの墓の前には殺生丸が居た。
りんを埋葬した時同様、静かに墓前に跪き、その墓を見つめていた。
俺が来ているのが分かっていても、殺生丸は動かなかった。
「殺生丸・・・」
俺が声を発するとゆっくりと殺生丸は立ち上がった。
そして背を向けたまま、言った。
「・・・私は、もう行く。」
・・・俺は、なんとなくその言葉に戸惑いを覚えた。
これからどうするのか?とか、聞きたい事も言いたい事も沢山あったが、何故か何も言えず躊躇した。
りんを亡くした痛みを俺は代わってやれない。
補う術がない。
殺生丸はふわっと宙に浮き上がると、見る間に上空へ昇りゆき、俺は慌てた。
「!!っ殺生丸・・・ッ」
殺生丸は止まり、一瞬俺をじっと見た。だが次には、青白い光を纏い閃光のような速さで遥か遠くの森へと消えていってしまった。
空からはまた、粉雪が舞い落ちてきた。
季節の温度には左右されない俺たちだが・・・まるで、殺生丸は凍えてしまいそうに儚く見えた。
俺を見た殺生丸の眼には・・・
悲しい・・・悲しい色が差していた。
俺は、自分の無力さを感じた―――――――
すぐに、殺生丸のにおいを辿ろうと思えば出来たが、俺は後を追わなかった。
暫くは一人になりたいだろうと察したからだ・・・
この数週間、俺はずっと悩んでいた。
殺生丸を守ると約束した。
口でこそ言わなかったが・・・りんと俺とで交わした、固い約束だ。
本当は今だって会いたい。
すぐにでも傍へ行きたい。
それに、りんが亡くなった今、殺生丸がここへ来る理由はもう何一つないのだ。
会いに行かない限り、会うことは叶わない
まるで、別れの挨拶でもするようにりんの墓を見つめていた殺生丸。
俺は――――・・・何故か罪悪感のような感覚に襲われていた。
過去に犯した、奴への罪。
ずっと抱き続けた、りんへの嫉妬。
鏡の事で、りんを傷付けたこと。
りんが病気になったのも、俺のせいではないかとすら思えてくるのだ。
むしろ、・・・これまでの事全てが、俺自身が元凶なのではないのかと・・・
俺の・・・俺の存在が。
だが、そんな俺に、思いがけない男が話し掛けて来た。
「犬夜叉。」
!・・・弥勒。
「ちょっといいですか。」
「・・・おう、何か用か。」
不良法師だった弥勒も、珊瑚を嫁に貰ってからはすっかり落ち着き、今や立派な青年だ。
もっとも女に目がないところは相変わらずだが。
「・・・どうしたんです、お前らしくもない。」
「・・・、・・・何がでい。」
「お前、このところずっと何か考えているでしょう。」
「・・・っ別に・・・いつもと変わんねえだろが。」
弥勒は溜め息をつき、でもどこか穏やかな表情で俺に笑いかけた。
「・・・これでも私は法師ですからね。説法こそしませんが、人の心は少し解るつもりです。」
「・・・・・・」
「兄上殿のことでしょう?」
「!」
「・・・お前は昔から判り安いですからね。」
「・・・・・・」
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