「犬夜叉。・・・お行きなさい。」
「・・・!」
「躊躇う理由は・・・時間がきっと、解決してくれます。」
「・・・・・・」
「・・・心のまま貫けば良い。お前はお前のままに。」
「・・・っ・・・おめえに、何が分かるっていうんだ!!」
「・・・・・・」
「・・・お前には分からねえよ・・・っ」
男と女で。人間同士で。何の障害も無く珊瑚と幸せになって。
「・・・りんは・・・お前が好きだと言っていました。」
「!?・・・」
「・・・お前が羨ましいとも言っていました。」
「・・・何で・・・」
「殺生丸とお前には、切っても切れない結び付きがあると。・・・憎み合っていても、遠く離れていてもお互いを想い合っていると。」
「そんなはずはねえ、俺はそう思ってても殺生丸は・・・っ」
「・・・いいえ。あの子の目は確かです。誰よりも一番兄上殿を大切に想い、愛していましたから。・・・お前に負けじと、ね。」
「・・・!!」
「犬夜叉。・・・後の事は案ずるな。珊瑚も退治屋の生まれだ。妖怪がここに押し寄せても、私と珊瑚・・・楓様が居るから大丈夫だ。」
「・・・・・・」
「私たちはずっとここに居る。・・・いつでも帰って来なさい。」
「弥勒・・・」
「・・・お行き。」
弥勒は片目を瞑って、促した。
「・・・、また・・・戻って来る!」
俺はそう言って、家を出た。
弥勒・・・出会った頃は、女に適当で悪知恵の働く、なんてヤな野郎だと思ってた。
だけど・・・いつも助けられてた。人間の身で危険を冒し、仲間の為に何度もその命を失い掛けていた。女グセの悪さも面倒見の良さも、昔から少しも変わってない。
楓ばばあの村は好きだった。
仲間も増え、今はもう孤独ではないが・・・唯一の温かい場所だった。
りんの墓前にしばしの別れを告げ、俺は村を後にした。
・・・勘のいい弥勒は、俺の気持ちに気付いていたように思う。
細かい説明や経緯を話さなくても、他人の心情を読み取る事に長けている。・・・俺の・・・実の兄、・・・殺生丸の事も・・・弥勒ならば、奴の気持ちを理解する事が出来るのではないかとさえ思う。
今思えば・・・とっくに気付かれていたのかもしれないな。
りんも。
天真爛漫ではあるが、元々聡明で賢い子だ。
りんにとっても殺生丸が全てだった。これまで俺以上に長い時間を殺生丸と過ごして来たのだから、故に、りんだって同じように俺の殺生丸に対する目線に気付かないはずはないんだ。
・・・今になって・・・
俺は、後悔ばかりだ。
後戻り出来ない時間を経てからしか周りの温情に気付かない。
もう・・・後悔は嫌だ。
俺は、殺生丸を追う。
親愛なる者達の想いを継いで―――――――
犬夜叉は知らない。
そして永遠に知ることはない。
りんは、あの川での光景を見ていた。
犬夜叉が愛おしむように大事そうに彼を抱き締め、口付けをしているのが見えた。
まだ幼い子供ながら、入り込めない空気を感じた。
その時、何かを悟った。
敵わないだろうと。
その想いには。
何もかもを理解した上での、りんにとっても全力の愛だったのだ。
誰にも最期までそれを口にする事はなかったが。
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