残 -ZAN- 4P
「ささ、どうぞ。」 「・・・・・・」 何か一瞬本能的に引っ掛かるものがあったが弥勒がクイと自分の杯を傾けるのを見て、殺生丸も注がれた酒を飲んだ。 「・・・法師・・・・・・私を呼び出した本当の目的はなんだ。」 「・・・・・・貴方と酒を飲みたかった、と先程申したでしょう?」 弥勒は酒を口にしながら言葉を続ける。 「・・・・・・」 「・・・二人きりで。」 「・・・・・・」 「貴方と。」 「・・・・・・」 「こうして会いたかったんですよ・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・あの夜から。」 殺生丸は一瞬硬直し、相手を見た。 “あの夜”。・・・やはり本題はそれか。 相変わらず弥勒は笑んでいるが、こちらを見るその顔はどこか惨忍で冷酷。 何かがおかしい。 最初から感じていた違和感と居心地の悪さ。 「貴方だって私が何の意図もなく妖怪の貴方をこんな堂へ呼び出すとは思っていないでしょう?」 「・・・・・・」 「・・・犬夜叉の血の染みた布・・・こんな小細工など貴方には通用しない。だけど貴方の関心を引くには十分だった。」 弥勒は座ったまま、殺生丸の元へにじり寄った。 「ッ・・・馬鹿馬鹿しい・・・!」 近付いた弥勒が自分の髪に触れたところで殺生丸はその手を叩くように払いのけ、立ち上がった。 だが立ち上がったところで眩暈に襲われ、ガクリと床に膝を着く。 「!・・・・・・ッ」 何・・・だ・・・? 身体が重い。 殺生丸は体を支える為、両手までを床に着き完全に座り込んだ姿勢になってしまった。 まさかと思い酒をチラと見た。 「・・・貴様・・・・・・何か盛ったのか・・・」 「いいえ、まさか。」 確かにさっき法師も同じ酒瓶から同じものを飲んだ。 もし毒だとしてもこの自分に人間の毒が効くはずはない。 それに毒なら飲む前に臭いで判る。 ならば何故・・・ 「貴方に毒など盛りません。・・・でも貴方には毒かもしれませんね。」 「・・・!?・・・」 「効くでしょう。・・・それ、御神酒(おみき)ですから。」 「!!・・・ッ」 御神酒。神仏の霊力の宿ったものなど妖怪にとっては毒でしかない。 妖力の弱い妖怪の体内に入ればたちまちもがき苦しみながら果てるだろう。 何の恨みかは知らないが所詮人間。大妖怪である自分を殺せずとも苦しむ様を見ながら痛め付けようというのか。 「・・・初めに言ったでしょう。貴方に用があると・・・」 「ッ・・・」 再びこちらににじり寄る弥勒を押し退けようと弥勒のほうを向いたとき、殺生丸はハッとした。 その肩越しに目に入った護符。 何故今まで気が付かなかったのか。 入ったときから肌に感じた心地悪い気。その正体。 見れば天井近くの四隅に護符が貼られている。 行燈の光に照らされぼうっと浮かび上がって見える。この堂のすべてが気味が悪い。 「チッ・・・・・・!」 殺生丸は小さく舌打ちし、同時に弥勒を肘で突き飛ばした。 身体は重いが意地で立ち上がる。 一刻も早く此処を出たい。 その一心でフラ付きながらも入口へ向かう。 「・・・ッ、お待ちください!!」 弥勒も立ち上がり、殺生丸に駆け寄ろうとした時だった。 バチッと尖るような激しい音。 殺生丸の手が扉に触れた瞬間、その手は青白い閃光に弾かれたのだ。 「・・・だから待てって言ったのに。」 「・・・ッ・・・」 「内側に結界を張ってあります。」 「・・・・・・どういうつもりだ。」 「・・・妖怪である貴方にその扉は開けられません。外側からなら妖怪であっても開くことは可能でしょうが・・・こんな堂へは誰も来ない。妖怪ならなおのこと。清めれた此処へは近付かない。」 「・・・私を閉じ込めて何がしたい。」 「・・・・・・手。血が出ていますよ。」 弥勒は結界のせいで傷付いた殺生丸の手を取ろうとするが、殺生丸は腕ごと振り払った。 「・・・血、赤いんですねえ。・・・・・・貴方は冷酷な人だ。冷たい人。だからもしかしたら血も青いのかと思っていました。」 「・・・・・・」 「・・・でも違ったようだ。貴方は冷たくなどない。・・・・・・犬夜叉に抱かれてあんなに乱れて・・・あんなに熱い契りを交わしているのだから。」 「・・・・・・法師・・・貴様・・・」 カッと怒りに鋭く弥勒を睨み付け、毒爪を光らせた。 だが裏腹にいっそう重く痺れる身体。 完全に侮っていた。 多少念力を使えるからといってたかが人間。どんな事態でも優位なのは自分だと確信していたのに、それがこの有様。 「“弥勒”ですよ・・・法師などと呼ばずに弥勒と呼んでください。」 弥勒は殺生丸を抱き寄せ、耳元で囁いた。 「ねえ・・・抱かせてもらえませんか。」 「ッ!!」 その言葉に殺生丸は眼を見開き、弥勒の背に毒爪を振りかざそうとするがすんでのところで手を止めた。 「・・・何故止めたんです。・・・私が犬夜叉の仲間だから?・・・いや、少し違いますね。仲間の私を殺せば犬夜叉が悲しむから。ですよね。・・・珊瑚の場合だってそうだ。あのとき珊瑚に手を下さなかったのはりんが悲しむからだ。お優しいことで・・・」 「・・・っいい加減に・・・!」 殺生丸は腕から抜け出そうと上体をずらすが、なおいっそう強く抱き込もうとする弥勒。 |
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