宿り花 -ほんとは半々、されど愛おしきは- 17P
「・・・・・・昇華したのだろう。」 「あァん?」 「・・・何でもない。・・・花はとうに離れていたのかもしれんな。」 「でも昨日まで身体は・・・」 「私に聞くな。・・・・・・ただもう身体は戻った。それだけのこと。」 「ふ、ん・・・。まーもう、何でもいいけどな。」 騒がしい水音を立てながら忙しく体を洗う犬夜叉。 その背中を見ながら殺生丸は本当に犬のようだ、と内心笑った。 無茶苦茶でどうしようもない男。 誰にでも情を持ち接する姿が人間を愛した亡き父上と重なって腹立たしかった。 この弟の存在が酷く心を掻き乱した。 そしてまたこの半妖の弟はいつだって己を。 「・・・犬夜叉。」 普段のそれと変わらぬ殺生丸の凛と澄んだ声。けれど穏やかでどこか甘さを含んでいるような声に、もう川から上がろうとしていた犬夜叉は相手のほうを見た。 「・・・――――――」 呼び掛けに応じ振り返った視界に映る殺生丸の姿。 緩やかに流れ落ちる滝。 水面に弾かれた飛沫が陽の光を浴びてきらきらと輝く。 その雫を受けて濡れて光る殺生丸の髪。 襦袢の白が水面の光を映して眩しい。 その何もかもが。 「犬夜叉。」 「・・・・・・」 もう一度名を呼ばれ、犬夜叉は殺生丸を見つめた。 自分に向けられる相手の眼はいつだって刃の切っ先のように鋭いものだったのに。 今目に映る殺生丸は。 少し微笑んだその顔は猛烈に美しく、これまで見たことのない優しい表情を浮かべていた。 その瞳から感じ取れる相手の想い。 もう二度と触れることは赦されないと思っていたのに。 「・・・ッ殺生丸・・・っ」 犬夜叉はがむしゃらに川の中を殺生丸へと駆け寄り、唇を重ねた。 固く抱き締め、接吻を交わす。 「・・・ハ・・・ッ・・・」 「ン・・・ッ」 髪ごと頭を抱え込まれ、貪るように絡み付いてくる犬夜叉の舌。 殺生丸もそれを己の舌で追ってよこす。 ようやっと唇が離れたときには互いに息が上がっていた。 犬夜叉は僅かに腕を緩め、相手の顔を見た。 澄んだ綺麗な眼。 水に反射した光を受けて眼の金色がいっそう澄み切る。 本当に綺麗だ。 男であろうと女であろうと今目の前に居る殺生丸が俺が心底求め欲した全て。 「・・・もう昨日のようには出来ねえんだぞ。分かってんのかよ・・・」 殺生丸に犬夜叉を拒む様子はない。 だから訊くように言ったのだ。 もう昨日のように途中で止める事など出来ないから。 「・・・気まぐれだ。」 「フ・・・」 覚えのある台詞。 でももう一方的な熱じゃない。 「・・・ッ」 抱き込み、川岸へ押し倒す。 絡み合う甘い吐息。 犬夜叉は殺生丸を抱いた。 殺生丸は何故、元に戻れたのか。 花は何故憑いた主を解き放ったのか。 俺には分からない。 でも殺生丸には本当の理由が分かっているのかもしれない。 花に翻弄された殺生丸と自分。 でもきっとこんなことがなければ今の俺たちはなかった。 二人きりで過ごすことなど二度となかったかもしれない。 「・・・犬夜叉・・・っ」 「ッ・・・」 名を呼ばれる度この奥が疼く。 震えるような悦びが全身を走る。 「ハ・・・ァ・・・ッ殺生丸・・・ッ」 「アァッ・・・ッ!!」 想いの丈を知らしめるようにいっそう強く情欲を叩き付けた時、相手の中で己の熱が爆ぜた。 昇りゆく陽に照らされ輝く二つの身体。 情事の後の優しい愛撫に身を任せ殺生丸は目を閉じた。 犬夜叉もそんな殺生丸を包み込むように重なり目を閉じる。 穏やかに満たされた互いの熱を感じながら二人は眠りについた。 今しばらくはこのままそっと静かな刻が流れればいい。 目が覚めれば互いにそれぞれの場所へと帰り奈落を追う旅は始まる。 それぞれに待つ闘いと決して抗えぬ宿命。 だが例えこの先再び刀を交える事になったとしても二人でいたこの日々と想いを結んだ今日のことはずっと忘れないだろう。 犬夜叉は遥かより殺生丸だけを望み、殺生丸は犬夜叉を受け入れた。 それが互いの胸に刻まれた真実。 いつの日か二人に戻る日が来たら。 命別つまで共に。 |
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17P (完) | ||
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