宿り花 -ほんとは半々、されど愛おしきは-    2P




 


「あなたたちだったのね。良かった。」
「うん、ねえ、かごめさまたちも一緒に休もうよ。」
「え・・・」
「だってもう夜になるよ。かごめさまたちも休む場所探してたんじゃないの?」
「うん、そうなんだけど・・・でも・・・」

 かごめは苦笑いしながらチラと犬夜叉のほうを見た。

「・・・なんだよ。」
「だって・・・」
「俺は別に何にも思ってねーぞ!・・・ちび助だけじゃ頼りねーから殺生丸が帰って来るまで一緒に待ってやらあ!」
「誰がちび助じゃい!!貴様らなんぞに守ってもらわなくてもわしだけで・・・」
「それじゃ、お言葉に甘えて今夜はご一緒させていただきましょう。」

 邪見の言葉を遮り、弥勒は中へ進む。

「コラッ!!貴様ら勝手に・・・ッ」
「へえ、案外広いじゃないか。」
「ほんとね。」
「妖気の結界も張ってあるようだ。さすがは殺生丸。抜かりない。」
「ケッ!」
「ここならゆっくり休めそうじゃ。」

 七宝は早くも阿吽を背枕に寝転び、喚く邪見を無視して皆がおのおのくつろぎ始めた。
 犬夜叉は洞穴の入口付近に胡座を掻いて座った。

「・・・でも殺生丸はどこへ行ったんだろーね。」
「殺生丸がちび助どもを置いて行くのなんていつものことだろーが。」
「殺生丸さま、しばらく戻らないって言ってたよ。」
「しばらく?・・・それは残念ですねえ。」
「何で?」
「せっかく兄弟の再会なるかと思ったのに叶わず終いになりそうだ。」
「へっ、せーせーすらあッ!」
「・・・会いたかったくせに。」
「ッ誰が・・・、」
「素直じゃないんだから。」
「ホント、ホント。」
「別に、俺はッ・・・!!」

 顔を真っ赤にしながら皆のほうを振り返る犬夜叉。だが、洞穴の脇にキラと光るものに気付き、眼を見開いた。

「おい、邪見!!」
「邪見様と呼ばんかッ!!」
「うるせー!ソレ、何だよ!?」
「犬夜叉?」

 真顔で邪見に問う犬夜叉に、何事かと犬夜叉の視線の先を皆が見つめた。

「あ!」
「それって・・・」
「何故、天生牙がここに・・・?」

 そう、天生牙。犬夜叉の見つめる先にあったのは天生牙。本来いつも殺生丸の腰にあるもの。
 先程は阿吽の陰となり気付かなかったが、洞穴奥の脇に天生牙の刃が真っ直ぐ地に刺さっていたのだ。

「・・・ではこの結界は天生牙の結界だったのか。」
「でも何で・・・殺生丸はあんたたちを置いて行くときいつもそうなのかい?」
「いや、殺生丸さまは普段わしらを置いて遠出なさるときはご自身の妖気の結界を張ってくださる。」
「え、じゃあ何で・・・」
「鞘はどうしたんです?」
「・・・」
「・・・さっき、殺生丸は“しばらく戻らない”って言ってたよな。」
「・・・」
「答えろ、邪見。」
「・・・理由は知らん。でも三日前・・・いつものように殺生丸さまが何処かへ出向かれ、りんは花摘みをしていた。そしてそのうち殺生丸さまが戻られ、わしらは歩き出したが・・・」
「・・・が?」
「それでどうしたんです。」
「まだ日も明るかったしわしはてっきりその日もいつも通り気ままに・・・あ・イヤ、奈落を追っての旅を続けるのだろうと思っていたんじゃ。・・・でも殺生丸さまは早々にわしらの寝床を探し、この洞穴を見付けると天生牙を抜き地に刺した。そうして洞穴内に結界を張り巡らせると“しばらく戻らない”と言い残しわしらを置いて何処かへ行ってしまわれたんじゃ。ご自身は刀の鞘だけを持って・・・」
「鞘だけ・・・」
「・・・・・殺生丸に変わった様子は?」
「何も変わっとらん。・・・三日前、わしらはいつもどお〜り殺生丸さまの帰りを待ち、いつもどお〜り殺生丸さまは戻られた。・・・でもあの方は元々闘いに生きるお方。わしらをこの洞穴に残していったのは何か深い思慮があってのことかもしれん。」
「深い思慮・・・?」
「奈落がらみのことでしょうか・・・」
「・・・今、俺らはこの辺りを通って来たけど奈落のにおいや危険な妖怪の気配はなかったぜ。」
「でも自分は鞘だけしか持って行かないなんて・・・」
「・・・殺生丸は本当にしばらく戻らないつもりかもしれないね。」

 黙って聞いていたりんはすっかりしょげてしまった。

「大丈夫よ、りんちゃん。」
「・・・あたし殺生丸さまを信じてるもん。」
「そうね・・・きっと何かちょっと戻れない訳が出来たんだわ。あなたたちを危険に晒さない為に・・・」
「・・・殺生丸さま、大丈夫かな。」
「大丈夫よ。ね、犬夜叉。」

 早く探しに行けとばかりにかごめは視線を送る。

「・・・チッ、分かってるよ!行きゃいんだろ!?」
「もしものときお前だけでは心許ない。私も行きますよ、犬夜叉。・・・珊瑚、雲母をお借りします。」
「ああ。」
「・・・でも天生牙の強力な結界が張ってあるこの洞穴にあたしたちよく入れたわよね・・・」
「・・・もしかしたらあいつからあたしたち、“危険”だとは思われていないのかもしれないね。」
「そうよね・・・そういうことになるわよね。でも犬夜叉も?」
「犬夜叉も。だって弾かれなかっただろ。」
「けっ!!・・・天生牙は元々親父の遺した刀だ。あいつと違って邪念がねェんじゃねーか。刀はちゃんとヒト見てるってことだろ!」
「・・・でも今の持ち主は殺生丸だよ。」
「それに魍魎丸との闘いのときも天生牙は結界で殺生丸を護っていたしね。」
「・・・ッ・・・知るかよ、行くぞ弥勒ッ!」

 犬夜叉は駆け出し、弥勒も雲母と共に後を追う。
 二人の姿はあっという間に見えなくなっていく。

「・・・ほんと素直じゃないんだから・・・」
「まったく。世話が焼けるよ、兄弟揃って。」

 森の奥へと消えゆく犬夜叉たちを見送りながら、かごめと珊瑚は顔を見合わせ苦笑した。

 実のところ犬夜叉はかごめに促されずとも初めから殺生丸を探す気でいた。
 天生牙の刃が洞穴に刺さっているのを見た瞬間本当はもうすぐにでも探しに駆け出したかった。
 天生牙を残して消えた殺生丸。
 本当にしばらく戻らないつもりなのだろう。
 いや、戻れないのか。何か戻れない事情が出来たのか。
 馬鹿野郎、鞘だけでどうしようっていうんだ、てめえは今丸腰だろーが!!犬夜叉は心の中で叫んだ。
 どうしようもない不安と焦燥を感じながら、犬夜叉は弥勒と共に殺生丸のにおいを探した――――――――――






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