あの誇り高い殺生丸が半妖の弟の言うなりになった挙句、許しを請うように弱音を吐いている。
まさかそんな日が来るとは。
犬夜叉の胸をズキリと締め付けられるような痛みが走る。
だが徐々に湧き上がる妙な高揚感。
そして更なる征服欲。
常の犬夜叉であれば罪悪感に苛まれ即刻縄を解き、その身体を抱き締めただろう。
でも今は。
半妖故に妖怪の血に支配され、その凶暴なる性質を抑制出来ない。
「・・・今更しおらしいこと言ったって遅ぇんだよ。・・・それとも弥勒との事を認めるってことか?」
「・・・・・・」
「・・・チッ!ほんとムカつくぜ、違うってんなら話してみろよ!否定の根拠を!・・・弁解したくても出来ねえんだろ!?弥勒のにおいが身体中に染み付いてたんだからな!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・まあ、いい。・・・もうずっとそうしてろ。てめえのせいで俺は疲れてんだよ。・・・ふ、そうしておけばそのうち吸収されるかもしれねえぜ。全部呑むまで抜くなよ。」
勝手なことを言い放ち、離れた場所に腰を下ろす犬夜叉。
殺生丸に背を向け、ふてぶてしい態度で寝転ぶ。
この体が壊れるまで続ける気なのだろうか。
殺生丸は混濁する意識の中、赤い衣の背中を見つめる。
「ッ・・・ゥ・・・」
どれほど注ぎ込まれたのか。
出口を失った夥しい量の精が腹の中に充満し、吐き気と耐え難い鈍痛に全身を苛まれる。
そんな殺生丸を放置し、犬夜叉は自分一人横になりくつろいでいる。
意識が遠のくが、絶えず襲う痛みに引き戻されて眠ることも出来ない殺生丸。
体力の限界だったのか精根尽きたように本気で寝入っている犬夜叉。
対照的な様子の二人。
そのまま正午を迎えた。
「・・・だりー・・・」
目が覚めた犬夜叉は横たわったまま大あくびする。
体は回復しているが、まだ倦怠感は拭えない。
もうひと眠りしようと再び目を閉じた。
だが、そうもいかなかった。
静かな納屋の中に響く苦しげな息遣い。
弱々しく掠れた小さな呻き声。
「ゥ・・・」
忘れていたように思い出す背後の存在。今の状況。
「・・・ッ・・・」
目を閉じても頭はどんどん冴えてゆく。
脳裏に浮かぶ殺生丸の姿。
翻弄されて乱れて喘ぐ顔。
相手は苦しんでいるというのに、その息遣いにあらぬ想像を掻き立てられて煽られる。
姿を見ていない分、聴こえてくる吐息に意識が集中して余計にその存在が鮮明になる。
殺生丸の身を案じるどころか、犬夜叉はすっかり欲情していた。
自分で作った状況下に自分で焦らされて昂る熱。
わざわざ挿れるより早く快楽を得たい。
無意識だった。
犬夜叉は袴から自身を取り出し、性急に上下させ始める。
フー、フー、と荒い鼻息を立てながら無心に扱く。
「フッ・・・、ァ・・・ッ」
間もなく犬夜叉の体が麻痺したようにビクッと揺れ、白濁が勢いよく床に飛び散る。
「・・・・・・」
しばらくそのまま放心したように横になっていたが、自身が落ち着いたことで再び静かになった空間に聴こえてくる殺生丸の苦しげな息遣い。
突如、犬夜叉は起き上がり適当に身形を整えると、ズカズカと殺生丸のほうへ歩き出す。
剥ぎ取った着物と一緒に置いた殺生丸の二振りの刀と自身の刀に目をやり、天生牙と鉄砕牙を掴む。
だがその途端。
「!!ッ」
手に鋭い痛みが走る。
「・・・っ・・・」
何かに弾かれた・・・?
結界・・・?
犬夜叉は驚き、二つの刀を凝視する。
鉄砕牙・・・否、天生牙・・・・・・?
馬鹿な。
でも確かに何かに弾かれた。
「・・・・・・」
ゴトッ
心地悪さを感じながら、天生牙を殺生丸の傍に置く。
「・・・俺が戻るまで精々身を護るこった。」
意識があるのかないのか。
うな垂れたままの殺生丸に冷たい口調で言い放ち、犬夜叉はさっさと納屋を後にした。
完全に殺生丸を放置し、出て行った犬夜叉。
「ハァ、ハァ、・・・」
納屋からそう遠くない場所にある川へ駆け、着くなり水面へ頭を突っ込んだ。
限界まで浸かり、窒息する寸前で顔を上げる。
ザバッ
「ガハッ・・・ゲホッ、ハッ、ハァッハァッ・・・ッ」
突っ伏した体勢のまま、犬夜叉は動かない。
「ハァ、ハーッ、・・・ッ・・・何やってんだ、俺・・・」
息を切らしながら呟いた自責の念。
犬夜叉の妖怪化は目が覚めたときに治まっていた。
未だ怒りはある。
自らの行いも覚えている。
だが、沸き立っていた凶暴な血は鎮まっている。
一晩中本能の赴くまま存分に殺生丸を痛め付け、欲を発散し尽くし眠ったことで本来の己を取り戻していたのだ。
中途半端な妖怪化のせいで記憶ははっきりと残り怒りも引きずったまま。
猛烈な葛藤が頭の中をぐるぐると回る。
「・・・ッ」
何をやっているんだよ、俺は。
縛ってやり放題やって、終いには妄想してその当人の前で性欲処理。
変態かよ。
ガキみてえに起き抜けに興奮して。
羞恥心よりも性欲が頭を占めて夢中で手を動かしていた。
平常心に戻ると急激に自分の愚行に冷めてゆく。
殺生丸はそれどころじゃなく俺の自慰に気付いていないかもしれないが、とにかく一刻も早く納屋から立ち去りたかった。
でも衰弱している殺生丸を置いて長く留守には出来ない。
だが何かが襲ってきても天生牙が傍にあれば結界に護られて少しの間は凌げるだろう。
咄嗟に掴んだ二つの刀。
その途端の強烈な静電気を浴びたような痛み。
あれはやはり天生牙の・・・
警告。だった気がする。
俺への。
「・・・クソ・・・!!」
ドガッ
犬夜叉は地面へ思い切り拳を落とす。
「・・・ッ」
最低だ・・・何もかも・・・最悪。
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