暫く黙したままだった死神鬼はゆらりと動き、吊るしたままの殺生丸を抱きかかえ接吻をした。
「!!・・・ッ」
殺生丸は嫌悪し、反射的に逃れようとしたが死神鬼の押さえつける力には敵わない。
死神鬼の舌が強引に入ってくる。
強く顎を押さえられ、相手の舌を噛み切りたくてもそれも出来ない。
こんな事になんの意味がある。
死神鬼の執拗な口付けを受けながら殺生丸は気が遠のくような絶望を感じ、この先の己の末路に失亡し
た。
だが、死神鬼は意図的に接吻をしていた。
ようやく唇を離した死神鬼は己の唇を舐め、冷たく微笑しながら言い放った。
「・・・放心する程わしの接吻は上手かったか?・・・ククク・・・貴様とまともに口付けを交わしたのは初めてだったな。」
「・・・・・・下衆が。」
殺生丸は何の感情もない眼で死神鬼を見やった。
「・・・だが、身体は少し楽になったろう。」
「・・・!?・・・」
「その意があれば、妖気は体液の交わりでも送ることが出来る。」
そう、死神鬼は唾液を通し殺生丸に自らの妖気を送っていたのだ。
「・・・余計な事を・・・っ!!」
「・・・・・・死なれては意味を成さぬのでな・・・そのぶんに耐えるだけの妖気を送ったまでだ」
死神鬼は鎖を引き、殺生丸の両手首の戒めを解いた。
そして倒れ込んだ殺生丸の上に跨り、首筋に顔を埋め囁いた。
「・・・安心しろ。今度はちゃんと抱いてやる。」
よだつような屈辱の言葉。
首元に感じる死神鬼の体温と吐息。
死神鬼の言う”そのぶん”とはやはりこういう事。
殺生丸は戦慄し、逃れようと仰け反り死神鬼の体を押しやろうとするが依然相手のほうが力は強い。
「無駄だ。・・・フ・・・そんな非力でわしに勝てると思うか?先に言ったはずだ。”そのぶん”だけの妖気しか送っていないと。」
「・・・ッ」
死神鬼の言葉が示す通り、殺生丸の身体の鞭による裂傷は残ったままだ。
妖気を送られたといっても先程目を覚ました時よりは痛みが引き、ほんの少し余力が出来た程度。
自身の本来の妖力もない状態でやはり死神鬼に力で勝てるわけはないのだ。
死神鬼は自ら上着の前を開け、殺生丸の襦袢の合わせに手を入れた。
これまでとは何か違う、どこか熱を含んだ指先が肌の上を滑る。
次第に襦袢が着崩れ、襟元が大きく開けていく。
素肌と素肌が触れ合ったその時、初めて殺生丸はその言葉を口にした。
「・・・止せ。」
その言葉に死神鬼は弄っていた手をピタと止めた。
これまでに殺生丸からこんな言葉が出た事はない。
再三手酷い凌虐を繰り返してきたのに、ただの一度も殺生丸から哀願の声を聞いた事はない。
死神鬼はゆっくりと再び殺生丸の首筋に顔を埋めながら舐め、肌を弄る指を徐々に下へとずらしていく。
「・・・死神鬼!・・・っ」
「・・・・・・」
死神鬼は構わずに愛撫を続けた。
胸に死神鬼の髪がかかる。
肌を濡らす舌の熱を感じる。
「ッ死神鬼・・・ッ!!」
殺生丸は死神鬼の肩を掴んだ。
「・・・・・・何だ?」
死神鬼は動きを止め、ゆっくり殺生丸のほうを見やった。
視線が絡み合う。
「止めろ。」
殺生丸はハッキリと言った。
死神鬼は下を向き、その表情は伺い知れない。
僅かな時間沈黙し二人の間は静止したように思えた。
だが、徐々に死神鬼の体が小刻みに震えはじめた。
殺生丸が訝しんで死神鬼を見た時、クツクツと小さく笑っている事に気付いた。
そう、死神鬼は笑っていたのだ。
「・・・クッ・・・ク、・・・アハハハハハ!!」
死神鬼は殺生丸の髪をグイと掴み、ダンッと顔近くに手を付いた。
衝撃に殺生丸は一瞬ビクリとした。
「ふ・・・クククク・・・分かったぞ・・・わしは随分と遠回りしていたかもしれん。」
死神鬼は殺生丸に口付けをしようとするが、殺生丸は顔を逸らした。
「フハハハハ!・・・なるほどな。」
死神鬼は確かな確信に冷笑した。
「痛め付けるだけではお前には効かんようだ。・・・ならばやり方を変える。・・・殺生丸、貴様・・・愛撫されるのが嫌なのであろう?」
殺生丸は目を見開いた。
動揺の色が差した殺生丸の眼を死神鬼は見逃しはしない。
渾身の力で抗う殺生丸の鋭い爪が自身の体に傷を作ろうと、死神鬼は弄る手を止めなかった。
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