今朝は快晴。
キンと冷えるが、雲ひとつない。
積雪に朝陽が反射して眩しいほどの白銀の世界だ。
昨夜は久しぶりの満月だったから、今日は晴れる気がしていた。
気も晴れるってもんだ。
・・・いや、さっきまでは。
「おう、邪見。」
「なんじゃ、犬夜叉か。」
「なんだとはなんだ。」
睨み付ける邪見の態度が癇に障り、犬夜叉は邪見の首根っこを掴み上げた。
「よさんか、貴様!」
邪見は宙に浮いた足をばたばたさせながら人頭杖で犬夜叉を殴り付けるが、犬夜叉は意に介さず単刀直入に訊いた。
「なあ、殺知らねえか。」
「殺さま?・・・なんじゃ、居らぬのか?」
「居ねえから訊いてんだよ。」
犬夜叉は鼻が利く。
屋敷の何処にも居ないのは分かっていた。
それならばと従者たちに聞いて回ったが依然行き先は知れず、回廊を徘徊していたところへ前を行く緑の頭。
長年、殺の供をしていた邪見なら何か知っているかもしれないと思ったのだ。
「わしは知らん。」
何か隠している様子もない邪見。
「・・・そうか。」
犬夜叉は邪見を離し、歩き出した。
だが背後からの思わぬ台詞に足を止めた。
「犬夜叉。早う何とかせい。」
「・・・」
「ここのところ殺さまがピリピリしていておちおち昼寝も出来んわ。」
「・・・俺のせいじゃねーよ。」
「何おうっ、貴様のせいじゃろっ!!皆心配しておるわ。」
「・・・・・・あいつは昔からああだろ、なんも変わんねーよ。」
「避けられているではないか!」
「・・・・・・」
それはそうだ。いくら何でも皆が気付かないわけない。
笑えるほどあからさまな殺の俺に対する冷たい態度。
邪見や皆が気を遣っているのも分かっていた。
・・・というより事の収拾が着くまで成り行きを見守っていたのだろう。
何しろ俺と殺だ。
本気の大喧嘩になれば屋敷もメチャクチャになる。
元よりこれは二人のことだ。俺も殺も自分の内を素直に話すような性分じゃない。
だから余計こじれる。
それを気にしないのが殺。
気にしてるくせに何も出来ないのが俺。
でもいい加減どうにかしたい。
だから話し合おうと思ったのに肝心の殺の姿がない。
まるで察したかのように今朝既に姿は消えていた。
何処にもにおいがない。
「・・・安心しろ、長引かせねーよ。」
「いっそ別れればいいんじゃ。」
「―――・・・」
「殺さまは高貴なお方。お前のようながさつな半妖とはつりあわんわ。殺さまはもっとお父上のような・・・」
「うるせー、あんなじゃじゃ馬他の男(やつ)の手に負えるか!」
「じゃじゃ馬とはなんじゃっ!!!!」
「じゃじゃ馬だろ、だからこうして何処にもいねえんじゃねーか。」
「とにかく早く殺さまに謝らんか!!」
「何で俺が謝るんだ!」
「貴様が悪いからじゃろう!!」
「悪くねーよ!何で俺が・・・」
「うるさい、貴様が殺さまのお怒りを買うようなことをしたからじゃっ!!」
「・・・・・・何もしてねーよ、俺は。」
犬夜叉は再び歩き出す。
「待たんか、まだ話が・・・」
「・・・」
「あっ犬夜叉・・・っ!!」
邪見を振り返ることなく回廊の手摺を飛び越え、犬夜叉の姿はあっという間に見えなくなった。
「・・・ふう〜・・・」
溜め息をつき、邪見もとぼとぼ歩き出した。
『いっそ別れればいい。』
一瞬どきりとした台詞。
心臓を抉られるような一瞬の痛み。
邪見が自分たちを心配しているのは分かっている。
だから本心からの言葉でないのは分かっていたが、それでも嫌な響きだ。
何にしても殺と話すしかない。
このままならどうせいつかはぶつかる。
仮にあっちが冷静でもそれはそれで今度はこちらが冷静ではいられないから。
だったらもう今だ。
そう思ったのに殺が居ない。
この辺り一帯・・・近辺の山にも森にも居ない。
においで分かっているのに探しちまう。
屋敷に戻っても殺が居ないのなら虚しいだけだ。
やがて行くところもなくなり結局来てしまうのは此処――――――――――
「ねー犬夜叉ァ・・・」
「あー?」
「・・・“あー?”じゃなくて・・・」
「何だよ。」
「何だよ、じゃないでしょ。いつまでゴロゴロしてるのよ。」
「そうだよ、いつもは呼んでも来ないくせに。」
かごめと珊瑚は鬱陶しそうに犬夜叉を見ては責め立てる。
此処は楓の家。
宛もない犬夜叉は何の気なしに立ち寄った馴染みの家につい居座ってしまったのだ。
「お姫さまが待ってるんじゃないの。」
「・・・そのお姫さまと喧嘩したから来たんだろ、犬夜叉。」
「ああ、そういうこと・・・」
「うるせーな、そんなんじゃねーよ!」
「も〜相変わらずね、あんたたち・・・」
「何でもいいよ、ゴロゴロしてるんなら法師さまと一緒に薪割りでも手伝ってよ。」
いつの間にか日も暮れかけている。
「なんじゃ、お主まだ居ったのか。」
「珍しいね、犬夜叉さんがお屋敷を長く空けるなんて。いつも殺さまと一緒なのに。」
村へ用事に出ていたりんと楓も帰ってきた。
「・・・その殺が居ねえんだよ。」
「別に今までだって2,3日居ないことくらいあるだろ。あの性格なんだから。」
「・・・・・・」
確かにある。
でも今日は絶対わざとだ。
この一月の互いの関係。
昨夜のこと。
あくまで俺を避け続ける気だ。
だから話し合いに持ち込まれる前に意図的に姿を消したんだ。
まさかこのまま・・・とか変な予感までしてくる。
「・・・チッ・・・」
だからといっていつまでも此処に居たってしょうがねえ。
そう思って立ち上がったとき、ふと感じた妖気。
「!」
・・・!!
来る・・・!!
・・・・・・そうだった、此処に居ればこういうことになる。
焦らずともいつかは会える。
りんが居るから。
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