殺は今でも時折りんの為に此処へ来る。
それが今このときとは思わなかったが願ってもない好都合だ。

此処に来たのは正解だったぜ。

「・・・・・・」
「犬夜叉?・・・あ!」
「・・・お姫さまが来たみたいだね。」

かごめも珊瑚も妖気には敏感だ。
今やよく知った妖気に、相手は殺だと判ったらしい。
それともう一人、妖気に鋭い者。
先に殺と顔を合わせたのは外に居た弥勒だった。

「りん、殺が来てるぞ。」
「えっ本当!?」

知らせに来た弥勒の言葉に目を輝かせて出て行くりん。

チラと外を見やれば殺が居る。
その手には淡い紫の小包。
きっと中にはりんへの品が入っているのだろう。いつものことだ。
嬉しそうなりん。
りんは殺を母のように姉のように慕っている。

俺はずっとお前を探し待っていたのに。
俺が此処に居ることはにおいで分かっていた筈だ。
今一番避けたい奴が近くに居てもりんの為ならお前は来るんだな。

りんに向ける眼は穏やかなのに。
どうして俺には。


「ちょっと犬夜叉!・・・そんな怖い顔してないで何かあるなら謝っちゃいなさいよ。」
「・・・別に俺は・・・」

かごめと珊瑚が睨んでいる。

お前らもかよ・・・
謝れ?
何で俺が理由もなしに頭下げるんだ。

「何だ、お前たち夫婦喧嘩でもしておるのか。」

クソ、楓ばばあまで・・・

「・・・ンなんじゃねーよ。」
「でも探してたんでしょ?」
「ああ。・・・けど謝る為じゃねえ。」
「じゃ何なのよ。」
「あいつが勝手に俺を無視して避けてるだけだ。」
「あんたが悪いからよ。」
「そうだよ。殺を怒らせたのはあんたなんだからあんたが悪いんだ。きっと。」
「うるせーな、俺は何にもしてねーよ!」

寄ってたかって好き放題言いやがって・・・
とにかく強引にでもあいつと話を・・・

勢いよく表へ出るとすぐ前にりんが居た。

「犬夜叉さん?」
「・・・りん。」

りんが戻ったということはあいつは・・・!
一瞬焦ったが、まだ殺のにおいがする。

「せ・・・――――

殺の居るほうへ駆け、名を呼び掛けたが思わぬ光景に躊躇した。

殺。 

と、・・・弥勒。

弥勒は外に居たから殺と話をしていてもなんらおかしくはない。

ただ。
おかしいのは。
何で。
あんな密着しそうな程傍に寄って。
殺の腕を弥勒の手が掴んでいるのかってことだ。

「オイ。」
「!・・・犬夜叉・・・」

弥勒はハッとしたように犬夜叉のほうを見た。

「・・・・・・」

殺は黙ったまま振り返らず、犬夜叉を全く見ようともしない。
犬夜叉の様子に動揺しているのは弥勒だけ。

「殺。」

声だけは極めて冷静に呼んでみる。

何なんだ、一体。
変な誤解などしていない。

弥勒はそういう奴じゃない。
だいたい弥勒にだって珊瑚がいる。

なのにこの腹からせり上がってくる苛立ちは。

「殺。・・・こっち向けよ。」
「犬夜叉、殺は・・・」
「お前は関係ねえよ。」

そう、関係ない。
問題は殺。

お前、人間が嫌いなんじゃなかったのかよ。
りんは別としても。

何で弥勒に腕なんか掴まれて黙ってんだ。
妖怪のお前が。
人間に触られて振り払いもせずあんな接近を許して。

何より許せないのは。

俺とこんな状態なのに弥勒とは親密そうにしていたその様子だ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

三人とも黙ったまま。
流れる空気が重い。

「・・・殺。」
「・・・・・・」
「帰るぞ。」
「・・・・・・」
「・・・話さねえと分かんねえよ。お前がどう・・・」
「話などない。」
「・・・俺はある。」
「・・・・・・」

だんだん嫌な方向に行く。
そうならないよう、考えないようにしていたのに。
嫌な予感が現実になりそうだから。
俺だって本当は話なんかしたくなかったんだ。
でもしょうがないだろう。このままじゃ。

もしも離れるにしても。このまま終わりじゃ残酷だ。
いや、そんな選択はさせない。
離れるなんて許さない。 





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