「往生際が悪ィな。」
『半妖・・・!!お前が何を怒る必要がある、女の心を覗いた限りお前らは憎み合っているはず・・・』
「・・・知ったふうなこと言ってんじゃねーよ。」

ギリッと踏み付ける力を強める犬夜叉。

『ウゥ!!・・・ク・・・お前はあの男が嫌いなのだろう、何故だ・・・』
「あいつは俺の兄貴だ。・・・あんま“兄貴”とは思ってねーけどな。」
『!!・・・』

確かに同じ白銀の髪。金色の眼。
クソ・・・何もかも全てが失敗だった。
あの女も・・・視界に法師が映っただけで自らの意思であたしを祓えるとは。

『・・・見逃してくれ!!あたしはただもう一度翼が欲しかっただけさ、もう二度とお前らの前には現れないから・・・!!』
「・・・・・・」

沼獄の必死な訴えに犬夜叉は足を離す。
だがそれは許したからではない。
これ幸いにピョンピョンと跳ね、その場から逃げ出す沼獄。
それを冷酷な眼で追いながら、ゆっくりと刀を抜く犬夜叉。

脳裏に浮かぶのは散々嬲られ血に染まった兄の姿。
皆の為。珊瑚の為。反撃せず、決して刀を抜かなかった殺生丸。

「・・・見逃せだと・・・?」

恐ろしいまでの静かな怒りを滾らせ、鉄砕牙を構える犬夜叉。

『!?』
「てめーの命だけは助けてくれなんて虫が良すぎるぜ・・・墓場で後悔しな。」
『!!』
「・・・風の傷!!!!」
「ヒッ・・・グギャアアアアア!!」

凄まじい妖気の威力に、沼獄は断末魔と共に跡形もなく消し飛んだ。

「・・・返り討ちにされたくなかったら相手を選ぶべきだったな。・・・もう遅いけどよ。」

殺生丸がされたことへの仇討ちをしたつもりはない。
ただ許せなかった。
本体が無いただの肉片など放っておいてもいずれ死に絶えただろうが、自らの手で始末せねば気が済まないほど犬夜叉の内は怒りに燃えていたのだ。

犬夜叉は刀を鞘に納め、踵を返す。




家に戻ると、皆が殺生丸の周りに集まっていた。

「殺生丸さま、大丈夫!?」

「りん・・・お前の家を汚してしまったな・・・」

殺生丸は自分の血のことを言っているのだろう。

「いいよ、そんなこと!!それより手当てしなきゃ・・・」
「要らぬ。・・・お前を巻き込んですまなかった。」
「いいんだよ、りんは一度死んでるもん!りんを助けてくれたのは殺生丸さまだよ、だからりんだって殺生丸さまの為なら死んだっていい!!」

殺生丸の左腕に抱き着くりん。

寄り添うりんに手を差し伸べてやりたいが、血だらけの手でりんに触れることは出来ない。
家族を野盗に襲われ亡くしているりんに、凄惨な場面は見せたくなかった。

穢れなき小さな人間の娘。
傷付くことを恐れない強く真っ直ぐな心。

どれほど殺生丸が大事にしていることか。

「・・・りん。」

強く静かな声に、殺生丸を見上げるりん。

「二度と言うな。」
「殺生丸さま・・・」

見つめる瞳から伝わる互いへの想い。
種別を越えたかけがえのない存在。

「・・・ごめんないさい・・・でも殺生丸さまもりんの為に無理しないで。」
「りん・・・」
「約束。」
「・・・分かった。」

優しい愛情に満ちた二人のやり取り。
だが、それを苛々しながら見つめる者が一人。

「・・・分かってねーだろ。」

犬夜叉だ。

「格好つけてスカしてんじゃねえよ。」
「犬夜叉、あんた何言ってんのよ!」
「大体、一人で解決しようとすっからこんな事になるんだ。自業自得だろうが。ざまあねーぜ!」
「ちょっと犬夜叉!そんな言い方!!」
「そうじゃ、そうじゃ、おらたちが人質になったばかりに殺生丸は・・・」
「うるせえ!!」

判っている。そんなこと。
皆を守る為に抵抗もせず珊瑚からの攻撃を受け続けた殺生丸。

犬夜叉は殺生丸に詰め寄る。

「とにかく・・・だったら先に手っ取り早くマッチを奪っちまえば良かったんだ!!」
「・・・成り行きだ。」

もちろんそれも珊瑚の身を考えてのこと。
得体の知れない沼獄。真の正体を知るまで反撃に出るわけにはいかなかった。

「成り行きで殺されかけてんじゃねーよ!」
「そんなつもりはない。」
「・・・痛覚が無いわけじゃねーだろ!!そのやみくもな自信どうにかなんねーのかよ。自分のカラダ過信し過ぎだっつーんだよ、てめえだって不死身じゃねーだろが!!」
「・・・・・・」
「犬夜叉・・・」
「殺生丸を心配しっとったんじゃ、犬夜叉は。」
「七宝ちゃん。」
「二日前だって犬夜叉の奴、殺生丸の血の匂いがするって血相変えて山から引き上げたんじゃから。」
「七宝、てめえ・・・ッ!!」
「ほんとのことじゃろ。」
「・・・ッ、そんなんじゃねーよ、俺はただ皆が気になって・・・!」
「さっきだって殺生丸をかばっておったではないか。」
「それは・・・ッ成り行きだッ!!」
「ほぉ〜。」

犬夜叉の顔はもう湯気が出そうなほど真っ赤だ。

「でも、そうよね・・・珊瑚ちゃんを止めるより先に犬夜叉は殺生丸をかばってたわ。」
「しかも殺生丸に抱きつかんばかりじゃったぞ。」
「ッ!!・・・っ」

土壇場の局面。
犬夜叉は敵である珊瑚に背を向け、自らが盾となり殺生丸を守ろうとした。
これ以上殺生丸を傷付けられたくない。
無意識の思いが犬夜叉を咄嗟に突き動かした。

「・・・敵に背を向けるとは愚かな奴め。」
「っ・・・、うるせー!珊瑚は敵じゃねえっ!!・・・ったく、全部てめえが悪いんだ!!二日前・・・あんときてめえが素直に俺に話してりゃこんな事にならずに済んだんだ!!」

赤面したまま犬夜叉は重傷の兄に怒鳴り散らす。

「犬夜叉、それをいうならあたしたちよ。二日前の出来事・・・そのとき初めからあんたに言っていれば・・・」
「かごめさま・・・」

かごめもりんも落ち込んだように目線を落とす。
珊瑚のことを疑いたくなかった。
それに気掛かりな弥勒の病状。
言い出せずにいた理由は手に取るように解った。

「誰も何も悪くない。」

各々が自身を責めるように沈黙する中、静かに口を開いたのは珊瑚。

「悪いのは全部あたし・・・あたし一人だ。」
「珊瑚・・・」
「珊瑚ちゃん・・・」






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