「出て行くってなら行かせりゃいいじゃねーか。」
「!・・・犬夜叉、あんたね・・・」
犬夜叉のぶっきらぼうな口調に怒りを露わにするかごめ。
「こんな状態で放っておけるわけないでしょ!もし何所かで襲われたらどうするの!?いくら殺生丸でも・・・」
「ハッ、死にやしねえよ。爆砕牙があんだから。」
「でも今は怪我してるじゃない、右腕だって刺されて血だらけよ!!あんただって見てたでしょ!!」
「うるせえっ!!」
「うるさくないわよっ!!」
「此処に居たって治らねえって言ってんだ!!」
「!!・・・」
「・・・・・・俺たちには手当てなんか必要ねえ。・・・知ってんだろ。包帯なんか巻いたって意味ねえんだよ。一時の止血くらいにはなるかもしれねえけどな。」
「・・・分かってるわ、だからせめて血が止まるまで・・・」
「かごめさま。・・・犬夜叉とて別に兄上を追い出したいわけではない。ただ、妖怪には妖怪の傷の癒し方があるのだろう。まして殺生丸は純血の妖怪だ。此処で休むことが殺生丸には負担になるのかもしれん。」
「弥勒さま・・・」
「そういうこった。・・・俺はこいつのことなんぞどうでもいいけどよ!どうせお前らが尽くしてやったところで恩にも感じねえ野郎だ。とにかく出て行くなら好きにさせりゃいい、清々すらあ!!何処で野垂れ死のうと放っときゃいいんだ!」
「犬夜叉!アンタ、ほんと何でそういう言い方しか出来ないのよっ!!」
いつものこととはいえ、こっぴどい犬夜叉の憎まれ口。
まるで情も何も持たぬような言われっぷりにさすがの殺生丸もジロと睨むが、すぐにスッと目線を逸らし外へと歩み始める。
「殺生丸さまっ!!」
「・・・りん。」
「殺生丸さま・・・」
「また来る。」
「・・・はい・・・!」
殺生丸は振り返らない。
本当は引き留めたい想いをグッと抑え、笑顔で殺生丸の背中を見送るりん。
「待って!殺生丸。これを・・・」
駆け寄った珊瑚。
手には小さな巾着袋。
「妖怪にも効く薬だから・・・」
「・・・要らぬ。」
静かに言葉を返しその場を後にする殺生丸。
「殺生丸・・・」
「・・・ケッ」
浮上したその姿はやがて遠ざかり見えなくなっていった。
「行ってしまったのう・・・」
「ほんと兄弟揃って意地っ張りの強情我慢なんだから・・・」
「殺生丸さま・・・」
不安げに揺れる瞳。
あの大妖怪の性分をりんなりに理解し信頼しているが、やはり心配なのだ。
「・・・また赦されてしまったな・・・」
「珊瑚・・・」
「人間嫌いのくせにさ。・・・違うね。あたしみたいな人間のこういう弱さやズルさが嫌いなんだ、あいつは。」
「・・・・・・」
「心も体ももっと強ければ・・・取り憑かれるなんてこともなかった。」
「珊瑚、そんなに自分を責めるな。今回の事・・・全ての元凶は私です。」
「違うよ、あたしだ!」
「・・・もう!弥勒さまも珊瑚さまもそんな顔しちゃ駄目だよっ。」
「りん。」
「りん・・・」
「大丈夫!!・・・殺生丸さま、優しいから!強いしねっ。」
全てを吹き飛ばすような強く明るいりんの笑顔。
本当ならば一番珊瑚を責めたいのはりんかもしれないのに。
「・・・ふ・・・」
「確かになんだかんだ優しいわよね・・・あいつ。・・・そういうとこ犬夜叉にもあるもの。口下手だけど。」
「それはちょっと違うと思うぞ、かごめ。犬夜叉は根性曲がっとる。おらのことしょっちゅう殴るし叩くし。」
「そうね・・・食いしん坊だしすぐ怒るしね。」
「ハハハ!」
やっと皆の顔からも笑みがこぼれる。
そんな中、反論一つない犬夜叉。
「・・・で、何処に行くんです?犬夜叉。」
「っ!!」
会話の中、さりげなく歩き出した赤い衣を弥勒は見逃さなかった。
「ッ・・・イヤ、沼獄も片付いたことだし、ちょっと食いもんでも採りに行こうと思ってよ!」
「食料ならたくさん有るわよ。あんたのおかげで。」
「・・・っ・・・散歩だよ、散歩っ!!」
「はあ?」
「オ・・・俺だって気分転換してえときくらいあんだ!!」
「犬夜叉。・・・お前、兄上を追いかけるつもりなのだろう?」
「!!ッちっげーよ!!」
「はは〜ん、やっぱり心配しとるんじゃな。」
「誰が!!・・・心配なんかしてねえっ!!」
「でも行くんでしょ?」
「ッ・・・ついでだッ!!・・・散歩ついでに様子見てくるだけだ!!死なれちゃ寝覚めが悪ィからよ!!」
「さっきと言っていることが違うではないか。さっきは野垂れ死んだって関係ないとか言っておったのに。」
「ダァーッもう、うるせえな!!ちっと見に行くだけだ!!」
顔を真っ赤にし、駆け出す犬夜叉。
「あっ、ちょっ・・・犬夜叉っ!」
「素直じゃないのう。」
「・・・犬夜叉ー、ヤるなよ〜。」
あっという間に小さくなってゆく赤い後ろ姿に投げかけた言葉は本人に届くことはなかったが、聞き捨てならぬ言葉にかごめはきょとんと弥勒を見る。
「え?」
「・・・いえ、勢いに任せて手負いの兄上に無理強いをしなきゃいいなー、と・・・」
「それってどういう・・・」
「・・・そういう意味じゃろ。」
「相手が窮地に陥った時こそ本質が出るというものです。」
「だからそれってどういう・・・」
「だからそういう意味じゃろう。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・そういう意味?」
どうやら理解したらしいかごめはあえて聞き返す。
無言で頷く弥勒と七宝。
「何となく・・・そんな気はしてたけど・・・そーなんだ。でも殺生丸が相手じゃ成就は難しいかもね。」
ほんのりと頬を染めるかごめを今度は七宝がきょとんとして見る。
「成就?・・・何言っとるんじゃ、かごめ。」
「え、だってほら色々・・・モノには順序が・・・」
「??・・・まあ確かに犬夜叉は根性ひん曲がっとるが、さすがに今は口喧嘩しに行くだけじゃろう。」
「え?」
「だから・・・心配ついでに喧嘩しに行ったんじゃろ、犬夜叉は・・・」
顔を見合わせる弥勒とかごめ。
どうやら解っていないのは七宝だったようだ。
「全く犬夜叉の奴、素直じゃないからのう。・・・殺生丸を前にただ心配で来ました、なんて態度は取れんのじゃろ。」
「そ、そうねえ・・・ろくでもないわよね、アイツ。」
「イヤ〜、全く!ははは・・・」
「ところで成就って何のことじゃ?」
「・・・お前にはまだ分からない男の野望ですよ。」
「?・・・犬夜叉は何か企んでおるのか!?」
「まあ、そうですね。」
「うぬーーっ!!犬夜叉の奴っ!!」
このときの“成就”が何を指すのか。
七宝がそれを知るのはまだ少し先の話。
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