バシャ
パシャ
静寂の森に響く荒々しい水音。
死神鬼はそびえ立つ岩の殺伐とした渓谷を抜け、山深くの泉で水浴びをしていた。
交合の後に相手を殺すのは今夜に限ったことではない。
これまでも己に対して少しでも執着を見せた者は躊躇なく始末してきた。
だが今宵はどうにも胸糞悪い。
・・・あの女・・・余計なことを。
「・・・チッ!」
バシャッ
水面を叩き、水飛沫が自身に掛かる。
「・・・・・・」
前髪からポタポタと流れ落ちる雫。
暫くそのまま佇んでいたが、取り乱した己をクッと嘲笑し泉から上がった。
「!」
放ってある服の傍まで行き、それに気付く。
不気味な黒い影がこちらに近付いてくる。
異質な妖気。
闇に光る赤い眼。
黒く長い髪。
死神鬼は前に立った男を鋭く見据えた。
「・・・何だ、貴様?」
「お前なら知っておろう。この奈落を。」
漆黒の森から現れたのは奈落だった。
犬夜叉たちの敵であり、追っている相手。
「奈落・・・、ああ・・・元は鬼蜘蛛とかいう卑しい人間・・・妖怪共に体を差し出しその寄せ集めで出来た薄汚い半妖のことか。」
「・・・さよう。」
「ククク・・・貴様、あの小僧・・・犬夜叉に怨まれているようだな。」
「ふ・・・その憎しみこそ四魂の玉の力の源。」
「・・・それで?わしに何の用だ。」
「邪悪な念はわしを引き寄せる。だから足を運んだまで。・・・まさかお前とは思わなかったがな。・・・かつて犬夜叉の父に敗れた妖怪。死神鬼。」
「・・・・・・」
どいつもこいつも。
己の過去を知る者は抹殺してやる。
ザッ
死神鬼の手は奈落を貫くが、黒い煙となり残ったのは砕け散った木片。
「傀儡か・・・」
ザンッ
背後に立つ気配。今度はそれを引き裂いた。
「くくく・・・」
「!」
間違いなく本体だというのに、胴体と首で両断されたまま奈落は笑っている。
「わしには効かん。」
「・・・・・・」
体の分解や再構成が出来る奈落には物理的攻撃は全く効果がないのだ。
「そうか・・・そういえば貴様の体はガラクタの寄せ集めで出来ているんだったな。」
放ったままの服と一緒に武器も置いてある。
死神鬼は嘲笑い、冥道残月破を放つ自身最大の武器を手にしようと屈み掛けた。
だが、奈落によって阻止される。
想定外の手法で。
「・・・・・・何の真似だ?」
死神鬼の腰に回る手。唇が触れそうなほど接近した顔。そうしながらも奈落の分離された身体は元通りに結合してゆく。
「言っただろう。お前の邪気に引かれた、と。」
「・・・・・・」
「お前も犬夜叉を憎んでいるのだろう?」
「・・・・・・」
フン、憎む相手はもう死んでいる。
ただその息子に用があるだけだ。
鉄砕牙を持つ半妖の小僧。
そしてその兄・・・冥道残月破を得た天生牙を持つ殺生丸。
冥道残月破はわしの技。
いずれ兄弟まとめて冥界へ葬ってやる。
「・・・感じるぞ、お前の邪気を。」
奈落は体内に持つ四魂の欠片が反応し汚れが拡がることで相手の邪気を感じ取れるのだ。
「・・・今宵はわしがお前を鎮めてやろう。殺し合うのはそれからでも良いではないか。クク・・・」
「・・・・・・フン、まあいい。ならば満足させてみろ。」
「御意に。」
死神鬼の濡れた裸体を目線でなぞる奈落。
「脱がす手間がなくて良い。」
奈落は跪き、死神鬼自身を上下に扱きながら先端を口に含む。
「・・・ふっ、・・・っ・・・」
扱き上げる速度を速めながらも巧みな舌使いで先の割れ目を舐め上げる。
奈落の口の中で次第に質量を増してゆく死神鬼のそれ。
「・・・ッ」
体の奥から込み上げる絶頂感に死神鬼は奈落の髪を掴み引き剥がそうとするが、奈落はがっしりと腰を掴み離さない。
「ク・・・ッ!」
ドガッ
死神鬼はそのすんでのところで奈落を突き飛ばし、押し倒した。
「愉しみはこれからだろう。・・・わしを満足させるのではないのか。」
「・・・そのつもりだが?」
ドサッ
一瞬の力技。体勢が逆転する。
奈落が死神鬼を組み敷いたのだ。
「挿れるだけの快楽では飽きるだろう。」
「・・・・・・ほう。では今宵はこの死神鬼に貴様を受け入れろと?」
「お前とて初めての行為ではあるまい。」
「・・・望むところではないがな。」
互いに冷たく微笑し、口付けを交わす。
奈落は死神鬼の冷酷な本性を見抜いているし、死神鬼もまた奈落が怨念と執念で出来た忌まわしい塊である事を判っている。
どちらの興味も相手にはない。
敵でこそないが、危険な相手。
だからこそ得られる極上の快感もある。
気狂い染みた妖しく危うい肉交が始まる―――――――
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