相生    11P




 


 俺の問いに殺生丸は答えなかったが、怖れを交えて不安げに揺れる眼、その顔が僅かに頷いたのを見た。

「殺生丸・・・」

 上体を屈めた俺の背を殺生丸の指先が掠めたのは気のせいか。
 殺生丸は俺のキスを拒まない。
 執拗に唇を重ねる中で背中を滑る相手の手。気のせいなんかじゃない。まるで性感帯に触れられた時のようなゾクリとした快感が全身を走った。
 俺は堪えきれず、殺生丸から唇を離すと性急に腰を進めた。
 押し付けた熱の先端が閉ざしているそこを一気に拡張する。

「ッ・・・ア・・・!!」
「・・・ッ・・・」
「ッ!!ァ・・・ッ・・・ク・・・」
「・・・殺生丸・・・ッ」

 痛みに馴染むのも待ってやらず俺はそのままゆっくり奥へと自身を進めた。
 付け根までを相手の中へ挿し入れ、またゆっくり腰を後退させる。そうして何度か狭いそこを擦り上げるうちに潤滑液でも施したかのように俺の精で入口がぬらついてくる。
 殺生丸はやはり苦痛に眉を寄せ固く目を閉じ、喘ぎを極力押し殺している。
 元々何かを受け入れる部位ではないのだから幾度行為をしたって作りの具合がよくなる訳もない。
 裂ける痛みよりも裂けそうな痛みのほうが辛くさせているかもしれないが。

 緩やかな抜き差しの繰り返しは俺にとっても忍耐を要する。
 俺は今にも弾けそうに怒張した塊根を全部埋めたところで腰を止め、相手のそれを掴み柔らかく揉み扱いた。
 快楽より限界まで拡げられ貫かれたままの下部の痛みのほうが意識を占めるのだろう。兆してくるのに時間が掛かったが、先端の鈴口を指の腹で擦ると透明の雫が滲み溢れてきた。
 俺はそのまま包み込んだ手を上下させ、そして相手が達し白濁が飛ぶと同時に激しい腰の律動を開始した。
 悦の余韻に浸る間もなく俺の急激な猛攻を受け入れる殺生丸は苦悶し呼吸さえままならない様子で仰け反り乱れ喘ぐ。
 相手の何もかもが扇情的で下半身が灼けるように熱くなる。
 絶頂の波が縦横無尽に駆け巡り、俺は我武者羅に突き上げた。

「ハァーッ、ハァーッ、ハァー、アッ・・・ッ殺生丸・・・っ・・・!!」

 昇り詰めたその瞬間、俺は相手の腰を強く掴みグッと奥まで自身を捩じ込んだ。
 殺生丸の体内で俺の熱が爆ぜる。
 殺生丸は俺を押し退けようとしたが俺は開脚させたまま殺生丸を抱き込み、更に腰を押し付けた。俺のそれは快楽の余波で麻痺し微量な滴を放出し続ける。
 限界を超えた質量が体内にめり込み、肥大した硬い幹に入口を拡げきられたままの殺生丸は激烈な苦痛に耐えて小さく震えている。
 でも俺は腕を緩めなかった。
 だってこれが最後だから。


 お互いの呼吸が整い、自身の昂ぶりが治まると俺はゆっくり相手の中から抜いた。

「・・・殺生丸・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ごめん、俺・・・」

 殺生丸の目尻には生理的涙が浮かんでいたが、申し訳なさそうに気遣う俺に殺生丸は微笑した。

「・・・・・・謝るな。お前はしたい事をして、私はそれを望んだのだ。」

 まさか本当に応えてくれるとは思わなくて。
 もう一度その身体に触れられると思っていなかったから。
 抱き締めた瞬間抑えられなくなってしまった。

 お前は俺の全部を許容し赦してくれた。

 この夜を忘れない。
 お前を好きになって良かった。













 夜明け前。俺のベッドで眠る殺生丸を残し、俺は家を出た。
 書き置きも何もしてはいない。
 携帯の電源は下へ降りるエレベーターの中で切った。

 殺生丸は俺を送ると言っていたがそんな事をされれば決心が揺らぐ。多分。否、絶対に。
 きっと殺生丸は、あっちに着いたらああしろこうしろと小姑みたいに最後まで煩く言うのだろう。
 そして最後は搭乗口へ向かう俺を黙って見送る。
 俺の姿が見えなくなればもう用は無いとばかりにさっさと踵を返して空港を後にする。一人で。
 あの家に居た頃感じたお前の孤独な背中が目に焼き付いて離れなくなる。
 耐えられない。俺は。
 だから見送りなんて御免だ。


 それに俺はもう大丈夫だ。
 始終べったり傍にくっ付いているだけが愛情表現じゃない。
 離れても同じ時間を共に生きていることに変わりはない。
 帰る場所をお前がくれた。
 絶たれることの無い繋がりを得られたから。

 また会う日まで別々の場所で互いの今を生きても。
 俺が想うのはたった一人だ。












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