相生    2P




 


 頭の中がグチャグチャしてくる。
 気が狂いそうだ。

 このタイミングでこんな風に会いたくなかった。

 こんな場面に出くわすくらいなら家で殺生丸の帰りを待って、また犯せばよかった。


 俺は会いたくて仕方がなかったのに、お前はこんな男と―――――――


 悶々と勝手な怒りが込み上げて俺は無意識にその男・・・死神鬼をじっと恨めしそうに睨み付けていた。

 それが急にチラとこちらを見た相手と目が合って、瞬間的に俺はあからさまに顔を背けてしまった。

 初対面の人間相手に妙な態度を取ってはさすがにまずいと思ったが、もう遅い。

 しかも相手は殺生丸の仕事絡みの人間なのに。

 俺の態度次第で殺生丸の品性を疑われでもしたら・・・


「・・・そっちの・・・」

「・・・前に話しただろう、弟だ。」


 俺のことが話題に出たので、俺はどぎまぎした面持ちで二人を見た。


「ああ、一緒に住んでいるとかいう・・・」

「犬夜叉だ。」


 俺を紹介する殺生丸の態度は淡々としていて普段のそれと変わらなかったが、死神鬼は今初めて存在を認識したように改めて俺をジッと見た。


「・・・宜しくな。」

「・・・・・・」


 口端が上がりどこか含んだような笑み。相手は意図もなく何ら普通の面持ちだったのかもしれないが、俺にはそう見えた。

 だから俺は返事を返さなかった。

 社交辞令でもいい、返事をせずとも会釈くらいすべきなのは分かっていたが、この男に頭を少しでも下げるのが嫌だった。

 大人の余裕を感じさせる相手の態度が酷く癇に障った。


 俺とこの男の間に流れるどことなく険悪な空気を察して、先に口を開いたのは殺生丸。


「・・・悪い。」

「いや。」


 相手は軽く笑った。

 俺の最低な態度に殺生丸はきっと心底呆れているだろう。

 弟の悪態を殺生丸が謝り、その相手・・・死神鬼は何とも思わず笑って済ました二人のやりとり。

 みっともない自分が浮き彫りになって恥ずかしかった。


「・・・今日は本当に助かった。・・・じゃ、ここで。」

「ああ。」


 殺生丸は死神鬼に軽く会釈しマンションのエントランスへと歩き出した。

 死神鬼ももう自身の車へと乗り込もうとしている。

 二人とも妙な様子の俺をまるで気にも留めていない。


 俺だけが一人腹立たしい思いで取り残されている。


 何なんだよ、この空気。

 ムシャクシャする。


「オイ。」


 エンジンの重低音が邪魔で聞き逃しそうになったが確かに聞こえた声に後ろを振り返ると、今一番消えてほしい男が黒光りのランボルギーニの運転席からこちらを見ていた。


「・・・チッ、・・・ンだよ。」


 ボソリと小さく呟いただけだから相手には聞こえていないだろう。

 心底煩わしく嫌々な態度でやむなく車に近付き、上体を少し屈めて低い窓を覗き込んだ。


「・・・お前、今日は止せよ。」

「・・・・・・」


 ハア?


 意味が分からなかった。

 だが何となくやはり含んだように微笑する相手の顔。その台詞。その眼を見て、ピンときた。


 会った時からの嫌悪感の理由。

 見透かされている気がしたからだ。

 事実、こいつは“俺と殺生丸の事“を知っている。

 根拠無き絶対の確信。

 こういうことについて女とは別の性的勘が男にはあるもんだ。


 そして気付いたこの嫌悪感の最大の理由・・・

 殺生丸の隣に立った姿があまりにも“お似合い”だったからだ。

 殺生丸とはまた違う整ったキレイな顔。目を引く容姿。その上、持ち主の財力をまんま現したようなこの車の保有者。

 釣り合っている。


 苛立ちの正体はドス黒い嫉妬。

 俺は、この男・死神鬼に対して猛烈な嫉妬心を抱いている。


 親密そうに思えた二人の光景が掻き消したいくらい憎らしい。

 本当はどういう関係なんだ。


 相変わらず微笑している男。

 相手はおそらく殺生丸と同じ会社の人間。対等に会話をしていたが、その振る舞いからもしかしたらこいつの方が上司とか幹部・・・上層部の奴かもしれない。

 とにかくいずれにしても“やっちゃいけない”というのは頭では分かっていた。
 でもこんな男に俺と殺生丸との事を知られている上に口出しされて黙っている俺じゃない。




  2P
    ← back   next →  






小説目次に戻る