相生 3P
「てめえ・・・」 威嚇するように相手を睨め付け、ネクタイごと掴み上げてやろうとその襟元に手を掛けた。 だが、ハッとした。 ハンドルに無造作に置かれた相手の左手。その薬指に光る指輪。 「!・・・・・・」 「・・・」 何考えてんだ、俺は。 後戻り出来ない状況に動揺している俺とは対照的に相手は俺の手を振り払いもせず、変わらぬ面持ちでじっとしていた。 俺がばつ悪そうに手を離すと死神鬼は乱れた襟元を直しもせず、ふっと軽く笑むとギアを入れ、素早く車をバックさせると見事なハンドル捌きでUターンし行ってしまった。 相手は大人なんだ。 引き換え、俺はまるでお子様だ。 既婚者相手に嫉妬丸出しで考えもなしに手を掛けた。 もし勢いのまま本当に殴っていたら、どうなっていただろう。 相手の態度は終始変わらなかったのに、俺だけが一方的に良からぬ妄想をして俺たちの関係を知られていることに腹を立てて後先考えず馬鹿な事をした。 それなのにいくら殺生丸の弟とはいえ、初対面で無礼を働いた俺をあの男は相手にもしなかった。 俺は謝りもしなかったのに。 相手が嘲笑しているように思えたのも、それは俺がやっかみから歪んだ目線で相手を見ていたからだ。 俺など死神鬼からすれば憤慨するにも値しないのだろう。 無様だ。 殺生丸の事になると頭に血が上る。 でもそもそも何で車で送ってもらうなどしたんだ。 何であいつは俺と殺生丸の事を知っていたんだ。 殺生丸の姿はとうにない。 俺があの男と一悶着したことなど知る由もなくとっくに家に戻ってる。 人の気も知らないで。 お前はいつだってそうだ。 上階に向かうエレベーターの中、殺生丸を責め立てる事で頭がいっぱいだった。 多分傍から見たら凄い形相だったろうと思う。 カードキーを乱暴に挿し、中に入ると放っときゃ閉まるドアを後ろ蹴りするように足で強引に閉めた。 重い音を響かせながらズカズカとした足取りでリビングに向かう。 「・・・・・・」 居ない。 居ねーな、あの野郎。 いつもは俺を無視してソファーでくつろいでやがるくせによ。 「・・・チッ、・・・」 俺はますます苛々しながらすぐに殺生丸の部屋へ向かい、勢いのままドアを開けた。 バンっともの凄い音とともにあまりの衝撃で限界まで開いたドアが反動で閉まりかける。 そのドアを瞬間的に掴み制止させた。 相手は椅子に座ったまま、驚き脅えた面持ちでこちらを見ている。 手元には書類。 仕事の書類に目を通しながらパソコンで作業ってところか。 家で仕事するときは書斎にこもるくせにいよいよ寝室のパソコンでも仕事かよ。 脳裏にあの男・・・死神鬼の余裕の笑みがチラつく。 「てめえ、何さっさと帰ってんだよ。」 「・・・別に・・・」 いつもなら“無視”か“無言”なのに、意外に返事が返ってきたのは俺にビビっているからか。 俺はベッドにドカっと座った。 相手はすっかり萎縮している。 俺から距離を取りたいが出て行こうとすれば俺が何をしでかすか分からないからだろう。 ・・・ふ、今更。 絞め殺されるとでも思ってんのか。 “する事”なんていつだって一つだろう。 ビビってたって状況は変わりゃしねーよ。少しは学習しろよ。頭回るわりにそういうことだけ抜けてるのか。 未開の分野の出来事には免疫が無さ過ぎて対応不可能なのか。 「・・・お前、さっきの男に俺のことしゃべったのか。」 「・・・・・・」 「・・・都合が悪いとだんまりかよ。・・・なあ。何であいつ俺たちの事知ってんの?」 「・・・・・・弟と同居していると言っただけだ。・・・お前が困るような事は何も話していない。」 「・・・・・・ハァ?・・・“困る”?・・・何が?」 “困る”って何だよ。 俺はお前にした事で犯罪者になろうがなんだろうが困りゃしねーよ。 ホントに何っにも伝わってねーんだな。 |
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