相生 4P
「・・・困るのはてめえだろ。」 「・・・・・・」 俺はゆっくり立ち上がり、殺生丸に近付いた。 無駄に広い部屋が距離を詰めてゆく俺に対する畏怖を煽るのだろう。殺生丸は椅子から立ち上がるとたどたどしく後退した。 妙に大人しい相手の様子が余計に癇に障る。 すっかり俺の言いなりだ。 以前の冷血漢ぶりはどこへいったのか。もはや貫禄ゼロだ。 ・・・・・・俺が、そうさせた。 「・・・“弟に犯されてるから助けてくれ”なんて口が裂けても言えないよな。お前の気性じゃ。イヤ、俺がもし逆の立場でも言えねーわ。・・・それにバックにあの家があるんじゃな。揉め事は厳禁なんだろ。こんな事が公になればあの女だって困る。あの家が終わればあの家で働く大勢が困る。」 思ってもいない事を口にした。 あの家を貶めるような事を言った気がしてジグジグと心臓が痛い。 「・・・それなのにあの男が知っているのは何でだ?」 壁を背に逃げ場がない殺生丸は怒りと怯えを含んだ何とも言えない面持ちで俺を見据えている。 イイ表情だぜ。 お前のこんな顔はきっと生涯俺しか知らない。 俺は体を密着させながら自身のソレが当たるようにわざと相手の腰を強く引き寄せ、もう片方の腕を殺生丸の首に回し絡み取るようにその髪を梳き掴んだ。 脅迫を込めて耳元で低く囁く。 「・・・答えろ。」 「・・・・・・」 ・・・今夜は優しくしたかった。 だから会いたくなかった。 会えば結局こうなる。 「答えられないのは―――――・・・お前があの男とそういう関係だからだろう?」 「――――――・・・」 「・・・だからあの男は“俺たちの事”を知っている。・・・どこでしゃべった?夜の床?・・・毎晩毎晩遅いと思ったら・・・つまりはそういう事だったのかよ。」 「・・・犬夜叉・・・」 鋭い眼光。静かな声。 その眼。久しぶりだ。 顔色だけがやけに蒼白で。 余計に内の怒りの程が分かる。 「・・・何睨んでんだよ。図星?」 「・・・・・・いい加減に・・・」 俺は髪を掴む手にグッと力を入れ握り込むように引いた。 「ッ・・・!!」 「・・・お前あの男の愛人なんだろ。そーゆーコトに慣れてる。・・・だから俺のことも拒まない。ケツ掘られんのが本当は快感なんじゃねーのか。」 言い切った途端に、一瞬頬の肉が飛んだかと思うくらいの激烈な痛み。 殺生丸からの平手打ち。 本気の一発だ。 「・・・・・・へっ・・・」 俺は切れた口端の血を自分の肩で拭った。 「・・・本当に図星かよ。・・・じゃ、いーよ。俺もますますこれから遠慮しなくていいってワケだ。」 「・・・ッ」 体全体で殺生丸を抑え込み首筋に口付ける。 だが思いの外、相手の強い抵抗。 「・・・んだよ、何突っ張ってんだよ。」 「・・・ッい・・・ぬ、夜叉・・・っ!!」 必死で俺を押し退けようとする相手の手首を掴み壁に叩き付け、体重を掛けて強制的に相手の動きを捩じ伏せた。 それでも相手の抵抗は収まらない。 「・・・チッ!・・・ッ・・・暴れるんじゃねーよ、殴られてーのか!?」 「・・・犬夜叉・・・ッ、・・・今日は・・・」 「“今日は”って何だよ、今日じゃなければいいのかよ!!いつもいつも嫌で仕方がないくせに・・・拒否拒絶懇願よりも自分のプライドが大事なんだろ!?・・・それともなにか、今日はあいつとした帰りだから嫌なのかよ!?」 「!!ッ・・・」 俺は殺生丸の体を投げ飛ばすように床へ放った。 駄目だ、もう。 爆発する。感情が。 これまでの全部が。思い出が。ドス黒く煮え滾る。 存外簡単に倒れ伏せた相手の上半身を強引に抱え起こし壁へもたれさせ、馬乗りになって足の動きを封じ、自分のベルトを外しに掛かった。 だが殺生丸から想定外の蹴りを食らいそうになり、俺は頭にきて殺生丸の顔を引っ叩いた。 俺の股間を故意で蹴り上げようとしたのか定かではないが、その未だ諦めないしぶとい抵抗が人間の奥底にある苛虐本能を煽り立てる。 俺は、つい数時間前までお前のことをずっと考えていた。 あの日の出来事。 腕のこと。 もしエントランスで鉢合わせなければこんな夜じゃなかった。 歪んだ偶然。 お前を斬った日。血の色が、頭から離れない。 大事ニシタイノニ。 「・・・ッツ・・・犬夜叉・・・ッ」 俺は殺生丸の両腕を掴み、力のまま乱暴に壁へ押さえ付けた。 衝撃で後頭部も強打した殺生丸は痛みに顔を歪め一瞬怯んだが、やはり俺から逃れようと俺を突っ撥ねる。 |
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