背徳    2P




 


 当然だが今日まで男同士で性行為をしたこともなければ知識もない。
 人間の体の構造くらいは多少理解しているが俺は医者じゃない。

 終えた直後のあの症状といい内臓を傷付けているとしたら・・・!?
 だとしたら下手に動かさないほうが良いのか。
 でもそんなに酷くしただろうか。
 ・・・イヤ、したが。でも。
 判らない。
 だんだんと俺は冷静さを欠いてパニックに陥りそうになったが、とにかく携帯を探した。
 脱ぎ散らかした自分の服を必死で探る。
 医者に診せればレイプがバレるとか今そんなことはどうだっていい。人命が掛かっているときに自分の保身を考えてる場合じゃない。
 元々そんな気もない。

 クソ、こんな時に。携帯が見当たらねえ。
 俺は焦燥し殺生丸のほうを見た。
 するとベッド脇に携帯が置いてあるのが目に入った。それは相手の物だったが俺はバッと携帯を引っ掴むとボタンを押そうとした。

 だが、突然腕を掴まれた感触に驚いて俺はビクッとなった。
 振り返ると殺生丸が半身を起こし俺の腕を掴んでいる。

「!!・・・殺生丸・・・っ!!」
「・・・・・・っ」

 辛そうに顔をしかめたのを見て、俺は思わず殺生丸の肩を抱いた。

「ッ・・・待ってろ、今・・・」
「・・・いい・・・」
「!?・・・」
「大丈夫だ・・・」
「何言ってんだよ、こんな・・・」

 俺は再び携帯に手を掛けたが、殺生丸に携帯を払われそうになる。

「止せ・・・」
「・・・ッ、だって・・・」
「私は大丈夫だ・・・」
「大丈夫じゃねえだろ、今体裁とか気にしてる場合じゃねーだろ!」
「・・・・・・自分のことくらい自分で分かる・・・だから呼ぶな。」
「・・・っ」
「犬夜叉。」
「・・・・・・」

 大丈夫じゃねーだろ、クソ、どうすりゃいいんだ・・・!!

「・・・何度も言わせるな・・・」
「・・・殺生丸・・・」

 声はかすれているがはっきり意思を感じさせる眼・・・嘘で大丈夫とか言う奴でもない。
 でも本人の意思の尊重より他人が判断して適切な処置を施さないと手遅れになるときだってあるだろう。
 今がそうなんじゃないのか。
 俺の判断に掛かってる。

「・・・犬夜叉。」
「!・・・っ・・・」

 もう一度番号を押しかけたが有無を言わせない眼で制止を訴えてくる相手を前に俺は携帯をぎゅっと握り締め、静かに脇に置いた。
 決断が揺らいでしまった。

 俺はとにかく相手を横たわらせた。
 下の服だけ素早く履き、リビングへ向かい救急箱を持って殺生丸の部屋へ戻ると投げるように置き、すぐに風呂場へ行き洗面台でお湯を溜めタオルを浸した。それを持ってまたすぐ部屋に戻り、横たわった殺生丸の身体を拭いた。
 殺生丸はやはり痛みで朦朧としているのかされるがままだった。
 男同士だから裸体を晒して恥ずかしいなどという概念は相手にもないだろうが、俺に介抱されるのは嫌なはずだ。だが身体が辛くてそれどころではないのだろうし俺もまたそんなことを気遣う場合じゃない。

 粗方見える範囲の血は拭ったが肝心の部分はまだ診ていなかったので、うつ伏せさせようかと思ったがさすがに相手の気性を察して躊躇した。
 それに今あまり動かさないほうが良い気がした。
 局部を診ようとしてもし抵抗されたら余計に相手の身体の負担になる。

 殺生丸を極力動かさないようになんとかシーツを換え、締め上げていたベルトの皮で擦り切れ痣になっている両手首を手当てした。
 一通り思い付く出来る限りの事をし、殺生丸に布団を被せたところで俺はもうどっと疲れてベッド脇に崩れるように座り込んだ。

 ・・・・・・皮肉だな。
 終わらすつもりが終わらない。
 本当に何が覚悟だ。
 血を見ただけで我に返って必死こいて手当てしてんじゃねーかよ。
 本当は犯るだけ犯って俺の全部をぶつけて何もかもを壊して姿をくらますつもりだったのに。
 後始末まで考えが及んでいなかった。
 自分がそうなるように痛め付けておいて、いざ相手の酷い姿を目の当たりにしたら放っておくことなんて出来なかった。

 もう5時前。
 少し寝て起きたら殺生丸の様子を見てそれから考えよう。
 ヤバかったら今度はすぐ病院に連れて行く。

 俺はふらふらと立ち上がり自分の部屋から毛布を持ってくると再びベッド脇に座り込みそのまま目を閉じた。



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