背徳 3P
鈍い明るさを感じてぼんやり目を開けた。 仮眠のつもりが熟睡していたらしい。毛布に包まって寝ていた自分の状況が一瞬分からなかったが、部屋を見て意識がハッと覚醒した。 「・・・殺生丸・・・」 無意識に名前を呼んでベッドを見上げた。 相手からの返事はない。 殺生丸は俺に背を向ける形で横たわっている。 表情が見えないので起きているのか眠っているのかは分からないが・・・。 俺はのそのそ立ち上がるとゆっくり殺生丸の布団をめくった。 シーツに血がほとんど付いてない。 血は止まったんだ。 布団を戻し、殺生丸の顔を覗くと目を閉じている。やはり眠っているのか。 大事には至らなかったのか・・・・・・まだ判らないがとりあえず容態が落ち着いていることに安堵し、俺はまた泣きそうになった。 何をやっているんだ。俺は。 やっぱりもう。 俺は・・・・・・ 俺は殺生丸の背中越しに静かに決意を口にした。 「・・・殺生丸。俺、行くよ。・・・俺を訴えるなら訴えてもそれでもいいから。」 だが、部屋を出ようとした時その声を聞いた。 「・・・・・・宛もないくせに何処へ行くというんだ。」 「!!」 殺生丸は起きていた。 心臓が痛いほど速く脈打つ。 介抱する目的でここまで居座ったものの、今更だがまさか事後に相手と会話を交わすなど想定外で俺は強張った。 「・・・外を見ろ。」 「・・・・・・」 急激な罪悪感に襲われ相手のほうを向くのが怖かったが、それでも恐る恐る振り返る。 外は真っ白だった。 雪だ・・・ 窓越しに雪がしんしんと降っている。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「出て行くなら止めないが・・・私を気遣っての事ならお前が出て行く必要はない。」 「・・・・・・」 何で・・・・・・何でそんなこと言うんだよ。 何で今そんな優しくするんだ、俺に。 今抱き締めたって拒絶するくせに。 冷たくしていいときに冷たく突き放さないなんて。 優しいのか何なのか。 馬鹿じゃねえ? 「・・・・・・じゃ、居るよ。」 ボソリと極小さな声でそれだけ言い、転がっている自分の服を取るとさっさと部屋を出た。 こんな顔見せられない。 すぐに風呂場へ行き頭からシャワーを浴びた。 子供染みたおかしな返事。 顔が濡れる前に返事をするのが精一杯でとっさに謝ることも出来ず、甘えて居座ることを選んだ自分。 冷たくされるべきときに優しくされたことが痛かった。 何もかも矛盾している。 自分が大嫌いだ。 外は雪。 外出は避けたい。 出て行かないばかりかもうそんな事を思ってる、自分の図々しさに呆れる。 とにかくまずは飯だ。 俺がどうにかしないと。 殺生丸は暫く動けないだろうから・・・ 幸いにも今がカレンダー上連休とはいえ、休みの日だって殺生丸が仕事に行くことはしょっちゅうだ。 きっちりしたお前のこと。俺が寝こけてる間に自分でちゃんと会社には連絡を入れたのかもしれない。 俺はとりあえず冷蔵庫を開けた。 2,3日過ごせるだけの食材は揃っている。買い物は俺がいつもしているから当然だ。 料理と大層言えるほどの物は作れないが、俺はほとんど外食などせずこの家で自炊している。殺生丸に養ってもらってる身分なのだから当然だし、昔から何でも一人でやってきたからそういったことが苦ではなかった。 だがかといって殺生丸が家のことを何もしないかというとそうではない。仕事柄接待も多いし人脈も広いのでどうしても外食が多くなっているが、いざ料理を作らせたら相当上手いし元々要領が良いので何でも出来る男だ。 ただ、この家で一緒に住む事になった名目上のこともあり家事全般は俺がやっている。 奇妙な感覚と重い痛み。 今頃とっくにこの家から姿を消しているはずがのうのうと居座ってキッチンで飯の支度をしている。 殺生丸の好きなフルーツを切り分けたりスープを火にかけながら、頭の中を色んな事がグルグル回った。 抱けばその先をもっと欲しくなることなんて分かっていた。だから出て行くべきだったのに。 ・・・何で殺生丸は俺を赦したんだろう。 いや、決して赦したわけではない。 昔からどうしようもない俺を諦めに似た境地で許容しているだけのことなのだろう。 では昨夜の行為までエスカレートした俺の暴走程度に思っているのか。 でも昨夜はたしかに殺生丸は俺を恐れ俺の行為に脅威していた。 もう考え出すとキリがない。 |
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