背徳 6P
仄かな石鹸の香り。 まるであの日のデジャヴ。 俺はリビングのソファに腰掛けている風呂上りの殺生丸に近付いた。 お前のやり方は的を得ているがお前は俺を解っていない。 「!!・・・犬夜叉・・・ッ!!」 俺は背後から殺生丸の首に腕を回し、絞めるように抱き締めた。 「・・・ッい・・・ぬ、夜叉ッ!!」 殺生丸は思い切り身を捩り、俺から逃れた。 だが俺はすぐにソファの前に回り込み、立ち上がり逃げようとする相手の手首を掴み捻り上げた。 下手に動けば腕の骨が折れる。 「ツッ・・・!!」 武道はお前が俺に稽古を付けたんだから俺だってそこそこの腕だって事を忘れたのかよ。 「犬夜叉・・・ッ!」 殺生丸は折れるのを覚悟で俺から身を離そうとする。腕が軋むのを感じて俺は手首を離した。 だが体が自由になっても俺に反撃はせず、あくまで俺から逃げようとする。 執拗に掴み掛かってくる俺の腕を阻止しようと相手の手が俺の腕を掴む。激しく揉み合いテーブルにぶつかり、置いてあったグラスが床に落ち割れた。 さすがシラフじゃ殺生丸も力は強い。 でもこういう時はより冷静な者が勝つ。これもお前が教えたことだろう。 俺は隙をついて殺生丸の膝裏を足で引っ掛けた。 体勢が崩れ、そのまま床へ倒れ込む。 一瞬の鋭い痛み。 ザクッと手の甲が切れたのが分かった。 倒れ込んだ時割れたグラスの破片が見え、体勢を反転させようととっさに俺は殺生丸の背中に手を入れたから。 「・・・ッ!・・・」 手を血で染めた俺に殺生丸のほうが動揺していたが、俺は手なんかどうでも良かった。この程度、大した怪我じゃない。 破片が無いほうへ双方の体勢をずらしながら俺は覆い被さり抱き付こうとするが、やはり相手は拒み揉み合いになる。 「犬夜叉・・・ッ・・・手、が・・・」 「・・・いいんだよ、手なんか・・・」 この後に及んで俺なんかの心配してんじゃねーよ。 ・・・っとに、優しいのか何なのか。 昔からだ。冷たい物言いも変わらない。・・・いざという場面で俺を救済するところも。変わってない。 懐けば振り払うくせに。 突き放されてるのか何なのか判らなくなる。 残酷な奴。 「・・・さっき・・・好きにしていいって言ったよな。」 「!?・・・」 「・・・・・・だったらもう気なんか遣わねーよ。」 「ッ・・・」 「それとこれとは違うなんて言わせない。・・・お前が言ったんだ。」 「・・・っ・・・」 「・・・・・・もう分かんねーよ・・・・・・なあ、・・・わざと?・・・本当は逐一翻弄される俺の様子を楽しんでるんじゃねーの?」 「・・・ちが・・・」 「違わねーよ!!」 俺は掴んだ殺生丸の手首を叩き付けるように床へ押さえ付けた。 「・・・俺のことを恨んでるんだろ・・・刀の・・・あの件の事も。・・・いや、もっと昔から。」 「・・・・・・」 「俺があの家に来たこと自体。・・・お前はずっと俺のことを嫌っていた。それなのに何かと俺を助けて。俺の面倒を見てくれていた。そのくせ相手が慕ってくるとバッサリ切り捨てる。自分が慕うように仕向けておいて・・・・・・計算高いやり方だよな。俺の性格を見抜いた上で・・・そういうやり口で静かに俺をいたぶって・・・・・・今に至るまで俺が追い詰められていく様を楽しんでいた。・・・お前なりの復讐なんだろ。父親の不義の子・・・俺に対する。」 「・・・・・・犬夜叉、・・・違う・・・」 「違わねえ!!」 「・・・ッ私は・・・、」 「予定通りで満足だろ、お前が俺をおかしくさせた、お前が俺を狂わせるんだよ!!今も!!」 もう戻れねーんだよ。俺は。 全身全霊、あれが覚悟の夜だった。 でもお前には何一つ伝わっていなかった。 だったらもう好きにする。 元々気を遣うような性分じゃねーんだよ、俺は。 あの家に住むまで・・・好きなように生きてきた。 あの夜を無かった事になんかさせない。 俺という存在を認識させてやるよ。お前に。 |
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