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  かすみの楔 −生い立ち−






「・・・ッ、ハァー、ハァー、ハァーッ、ハッ・・・」

 息が苦しい。

 欲を満たしきり、崩れるように俺は上半身だけを相手の身体に預けた。
 久しぶりだ。こんな全力で懸かったのは。

 女に飢えていたワケじゃない。
 性欲は別で処理していたし間に合っていた。媒体を通して自慰するだけだが俺はそれで十分だった。
 それに本格的に溜まってくる歳にはもう既に俺の胸中をお前が占めていた。
 ヤリたくなったとき無意識に思い描く妄想はお前。虚像の殺生丸が俺の上で悶え喘ぐ。それで自身を扱けばスグだ。
 そんなだったからチャンスはあったが今まで女を抱こうと思ったことが無かった。

 息が粗方整ったところで俺は上体を起こし、開脚の姿勢をとらせ根深く納めたままだったそれを相手の中から引き抜いた。
 ヌメりをもった水音と共に狂喜した俺の肉杭がズルリと出てくる。

「ゥアッ!!・・・ッ」

 引き摺られるような激痛に殺生丸の身体がビクッと跳ねた。

「・・・ッゥ・・・ッハァ、ハァ、ハァ、・・・」

 浅く速い呼吸。極限の痛みに既に限界だった神経がやられたのか、軽い引きつけを起こしている。
 そんな状態の相手に覆い被さり、がっしりと腕の中に抱き込み俺は目を閉じた。

 イイ性行為をした後って猛烈眠くなるもんだな。

 尋常じゃない行為をし、犯しておいて何でこれ程悠長でいられるのか自分でも分からない。
 酷い凌辱を受けた相手は死に掛けみたいな症状になってるってのに。
 狂ったアドレナリンが俺の正常な思考能力を麻痺させてしまったのだろうか。
 現にまた下半身が疼いてくる。

 脚を開かせもう一度ヤリたいと思ったが、今は眠い。
 睡眠、食欲、性欲。誰しも脳が下す睡魔にだけは抗えない。
 勃ち上がった熱を相手の股間に押し付けたまま、俺の意識は急激に遠のいていった。


 “・・・殺生丸・・・”・・・―――――――――


 声に出して言ったのか夢の中で言ったのか。
 相手の首元に顔を埋めながら俺はその名を呼んだ・・・










 幼少期は親戚中をたらい回しで育った。
 母親は俺が物心付く前には亡くなっていたから。二、三歳の頃だったと思う。

 はじめは施設に入れる事も考えたらしいが母親の実家はイイトコロだったらしく、世間の体裁を考えてやむを得ずという形で俺を引き取ったというワケだ。
 祖父も祖母も世間体は“良い人”だったが、内では堅い人だった。俺のことは娘が勝手に産んだやっかいものくらいにしか思ってない。
 それはそうだろう。母親は妻子ある男の子を身籠り周囲の猛烈な反対を押し切って俺を産んだのだ。
 当時は勘当同然に家を出て一人で俺を産み、誰の味方も援護も無いまま一人でやっていこうとしていたらしい。
 母の顔すら記憶にないが、俺を抱く腕は温かかったように思う。きっと強く優しい女性だった。

 俺は祖父母の家で必要な物は買い与えられ不自由なく育ったが、やけに家訓を重んじる体質が嫌で仕方なかった。
 はじめは“いい子”を演じていた俺もだんだんと苛立ちを募らせ手に負えない行動を取るようになり、祖父母は俺を扱いかねて親戚の家に預けたが、その親戚も俺を扱いかね・・・そうして俺はやっかいものとして親戚中を転々と居候だ。
 そんなだから友達もできない。
 不満を抑える術を持たないガキの反抗はエスカレート。
 誰も俺を止められない。
 俺は誰にも気なんか許さない。
 愛なんか無い。
 居場所も無い。

 大した家でもないくせにちょっと金があるからって何様なんだ。世間体ばかりを整えて俺を『立派』に育て上げようとする。
 振る舞いばかり立派でも俺はそんな人間じゃない。

 だから欺いてやろうと思った。
 勉学に勤しんだわけでもないのに何故か俺は成績だけは良かった。いわゆるトップクラスってやつだ。
 なんだかんだあっても親戚も教師も結局は進学を期待している。
 だが、俺の気持ちはもう他へ向かっていた。

 名の通ったエリート大学への道。そんなもんくそくらえ。
 早く家を出たい一心で高校を中退し、俺はそのまま行方をくらました。



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