劣情    2P




 


 殺生丸は風呂から出るとリビングのソファーに腰掛け、ワインを開けた。
 これもいつも通りの所作。
 しばらくしてだいぶ気分良くなってきたのか、目を閉じている。

 俺はリビングの明かりを消し兄に近付いた。

 殺生丸は半ば意識が飛んで眠っていたらしいが、ふと明かりが消えたことと、人の気配に気付いて微動した。

「!!・・・・・・お前、まだ起きていたのか。」

 かなり驚いたようだった。

 それはそうだろう。
 俺はテーブルに腰掛け、正面から兄を見ていたのだから。こんな夜中に暗がりで目を開けていきなり目の前に人が居たら普通はビビる。

 驚いたようではあるが勘の鋭い兄のこと。何か異様なヤバイ空気を察したのか、殺生丸は無言でいる俺を無視してテーブルのワインをそのままに、ふらふらとした足取りで自分の寝室へと向かった。

 少し盛り過ぎたか。・・・罪悪感が無いわけじゃない。でもそれ以上に勝るものがある。

 
 殺生丸は自室へ入り、明かりを付けようとしたがそれは無理なことだ。

「!!・・・犬夜叉・・・っ」

 急に指を押え付けられたことはもとより、ピタリと自分の背後に居た俺に今度は相当驚いたようだ。

「・・・何をそんなにビビってんだよ。」
「・・・・・・」
「俺たち一緒に住んでるんだぜ?・・・俺が居たって不思議はねえだろ。」
「・・・犬夜叉・・・お前・・・」

 声になってないような声。
 人間は本当の恐怖に出くわすと声が出なくなるってのはこういうことか。
 いくら普段敬遠の仲でも今夜は明らかに様子が違う。そんな俺に殺生丸は何か直感的な得体の知れない恐怖すら感じているのかもしれない。
 だとしたらその通りだ。

 俺は殺生丸の肩に手を掛けた。
 相手の身体がビクリと強張ったのがはっきり分かった。
 何をする気なのかと、驚愕し俺を見ている。

「・・・俺がどこに居たって不思議はないし、俺がお前にいつ何をしても不思議はない。」

 俺は殺生丸に口付けた。
 途端に頬に走る強烈な痛み。

「・・・効かねえよ。」

 口は切れたが、俺はよろけた程度。反動で倒れたのは相手のほうだ。
 馬乗りになって腕を掴み強引に仰向けにさせるが殺生丸は覆い被さってくる俺を押しやろうと渾身の力で抵抗してくる。

 ・・・やっぱり盛っといて良かった。
 薬が効いているはずなのに、この力。

「諦めな。さっきのワイン、一服盛っておいたんだ。」
「・・・ッ貴様・・・っ!!」

 俺は体重を掛けて殺生丸に圧し掛かり押さえ付けながら服を脱がそうとするが、当然相手の手は阻止しようと俺の手に掛かる。男同士の荒々しい攻防戦。俺はシャツの合わせを引き千切るようにボタンを外していった。
 半ばはだけた相手の胸から脇腹へと手をしのばせ、弄る。
 俺の目的に気付いた殺生丸は混乱し錯乱状態に近い。

「何でこんな事・・・ッ!!何故だ・・・っ!!」

 首筋を舐めようとしたら髪を鷲掴みにされた。
 指が震えている。多分痺れているからだろう。
 だが髪を掴まれるのはさすがに痛くて殺生丸の顔を叩いてしまった。
 相手は男だし気性からして例え顔に傷が付いてもどうとないことくらい知っている。けど、俺は殺生丸を極力傷付けたくないから薬を使ったんだ。

 暴れる殺生丸の激しい抵抗を受けながら、俺はもくもくと手短に“作業”した。そう、これはもはや力技の作業だ。肋骨が折れない程度に加減して腹に拳をぶち込み・・・蹲って動きが鈍くなった隙に抱え上げ、先に外した自分のベルトで殺生丸の手首を縛り上げ、ベッドの柵に括り付けた。

「・・・正気の沙汰じゃない・・・!!気でもふれたのか!?」
「・・・そんなに意外?・・・じゃ、結構俺のこと信用してたんだな。今まで。」
「ふざけるな!!」

 ・・・そりゃお前からしたら急な出来事だよな。

 俺はどんな事を言われてもどんな時もこの兄にだけは手を上げなかった。
 そういった意味では殺生丸は俺の事を信頼しており、こんなのは範疇を超えたまさかの出来事だろう。
 積もり積もった怒りの復讐とか戒めとかそんな風に捉えているのかもしれない。

 でもそれならそれでいい。
 どう解釈されようと俺はもう止まらない。




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