贖罪    3P




 


 夜が待ち遠しい。
 テレビを見ながら飯を食っていたら急にふと殺生丸の姿が浮かんで勃った。
 いやらしい妄想をしたわけでもないのに。
 一度意識すると吐き出すまで疼きが治まらない。
 俺がおかしいわけじゃない。
 俺の歳なら毎日ムラムラしたって男なら普通だし機能が正常な証拠だ。
 媒体ももう捨てた。DVDも雑誌も。
 男のサガを煽る為のわざとらしいポージング。不必要な白々しい喘ぎ声。ありえないプレイ。もはや萎える。
 もう必要ない。
 二次元の女で自らを駆り立てなくても生身の肌へ昂ぶった熱を投じられる。


「なあ。」
「・・・・・・」
「・・・ヤらせて。」
「・・・・・・」

 殺生丸が帰って来るなり、脱ぎ掛けたコートの背後からやんわり抱き付いた。

 香水をつけている風でもないのに殺生丸からはいつも良い匂いがする。
 コートを脱がし、スーツのボタンを外し、シャツの上から脇腹を弄る。

「・・・っ・・・犬夜叉・・・、」
「・・・何?」

 ネクタイを緩め、首筋に口付けようとしたら相手がのけぞり拒否を示し、何かを言い掛けたが俺はかまわず愛撫を続けた。

 ・・・嫌なら嫌だと言えばいい。
 中途半端な拒絶は俺の苛虐を煽るだけだ。
 高慢ちきなプライドをいい加減捨てろよ。

 本当はすぐにでも逃げ出したいくせに。
 その証拠に身体が強張っている。
 もう幾度も行為をしているのにいつも身を硬くさせるのは抵抗を我慢しているからだろう。
 そこまでして何のどんなプライドを守りたいんだ。

 俺は体を密着させ肌を弄りながら強引に相手の部屋へ誘導し、ベッドに押し倒した。





 そして終止符の打たれないまま、それからまた一ヶ月が過ぎた。

 体がだるい。
 重い腰を引き摺って洗面台へ行き、自分の顔を見た。
 酷い顔。
 疲れてる、というより荒んで、まだ“ヤリ足りない”ってカンジだ。
 溜めていた訳でもないのに昨晩は欲求が止まらず、どれくらいまでイけるか相手の身体で試して何度も出したのに。
 何度といっても、3回が限度だったが。最後終えた時には腰が立たなくなったし半勃ちにしかならなくなった。
 殺生丸も半ば意識はなく、朦朧としているようだった。
 それはそうだろうな。何しろ帰宅したら毎晩のように俺に行為を強いられ、痛みと疲れが入り混じる混濁の中で俺が欲を消化するまで受け入れ続けるしかないのだから。


 俺はシャワーを浴び、冷蔵庫からジンとトニックウォーターを取り出し氷を入れたグラスに注ぐと、それを持ってリビングのソファーに悠々と腰掛けた。

 朝っぱらから酒を呑み、学校にも行かず性欲を満たすことしか頭にない。
 方やそれを受け入れる相手は依然なんら変わらず生真面目に忙しく会社へ出社している。
 ・・・アル中かウツ病か。殺生丸がブチ切れる前に俺が先に自滅するかもしれない。
 でも俺はそれで満足だ。
 “見下ろす”やり方を変えただけ。

 言葉の揚げ足を取って言い逃れ出来ないよう相手を追い詰め俺に服従させた。
 あの兄を抱き、叶うはずのなかった望みを無理矢理手に入れた。
 日常からは想像も出来ない程乱れる姿。
 相手がイく瞬間も自分がイく瞬間も満悦至極。
 殺生丸は事実上俺に屈服したんだ。

 何度抱いてどれだけ中に出しても子供が出来る心配はない。
 ただ相手の負担になるだけで。
 俺が相手の立場だったら肉体的苦痛より精神的不快感で吐き気がするかもしれない。
 まあもし自分だったらそんな事をさせる以前に刺してでも逃げてる。

 ・・・・・・そう思うと気丈だよな。あいつ。
 弟に犯されて平然と会社行ってるんだぜ。

 結局、俺の負けか。

 虐めに近いような抱き方で体だけ繋いでも虚しい。
 下克上の高揚感なんてものはない。
 自業自得の境地。

 こうしてだだっ広いリビングに一人で居ると、まるでここが世間から切り離された空間のように感じる。
 今ここに俺が存在していることを誰も知らない。
 例え俺が今死んでも世の中は変わらず動き続ける。
 隔離された孤独。
 殺生丸が居ないと俺は駄目になる。
 でも殺生丸が居ると俺は狂う。

 思い描いていた理想に近付くどころか、間逆の獄へと堕ちて行く。

 蔑まれても耐えて尽くして・・・・・・そうすることが“あの件”の償いになると思っていた。
 そしていつか・・・・・・そう願っていたのに。

 俺の想いとは裏腹に運命はどこまでも交錯する。



  3P
  ← back   next →  






小説目次に戻る