宿り花 -ほんとは半々、されど愛おしきは-    11P




 


 まだ日暮れには時間があるが、もう西日が差し始めている。
 完全に日没を迎えれば自分は半妖から人間の姿へ変わる。
 そして殺生丸も。100年先まで元の身体には戻らない。
 でも覚悟は出来ている。・・・いや、覚悟なんて本当は最初からあった。
 遥か昔、殺生丸と出逢いその存在に惹かれてしまったときから。

 ・・・人間の姿を殺生丸は好かない。というより嫌っている。
 だから明日。朔の夜明けに人間の姿から半妖に戻ったらその時・・・・・・

 犬夜叉は凛とした面持ちで強くなってゆく西日を見据えた。
 とその時、聞こえた声に犬夜叉は耳をピクとさせた。

「・・・?」

 まさか。・・・空耳・・・?
 切望するあまり幻聴まで・・・

「!」

 イヤ、空耳じゃない。このにおい・・・!

「!!・・・・・・」

 殺生丸。
 下を見てドキリとした。
 殺生丸はすぐ下におり、木の上に居る自分を見上げるようにして名を呼んでいたのだ。

「殺生丸・・・」

 何で・・・・・・

「・・・・・・」

 犬夜叉はとりあえず静かに木から降りた。
 何かあったのか?
 傍に寄られることを嫌がっていた殺生丸が自分からわざわざ俺の元へ来るなど・・・

「殺生丸、どうし・・・」

 話し掛けた矢先、相手は自分に背を向けた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 明らかに様子が違う。
 用があるから来たのだろうに、背を向けた挙句押し黙る意図は何なのか。
 犬夜叉は殺生丸の肩に手を掛け、振り向かせようとした。

「オイ、何が・・・」

 間近で相手のその眼を見た犬夜叉は絶句した。
 その視線に息を呑む。
 憂いを帯びて鋭くこちらを見返す眼。
 それでいて妖艶。
 相手がそのつもりでなかったとしても、“男”を刺激するような醸し出す何かが相手にはあった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 黙したまま視線だけが絡まる。
 心臓が高鳴る。
 もし、今・・・・・・
 ・・・拒絶されなければ、もう後に引けなくなる。
 それでも。
 犬夜叉は殺生丸を引き寄せ、静かに唇を重ねた。

「殺生丸・・・」
「・・・・・・」

 唇を離し、恐る恐る相手を見た。
 拒まないのか。
 肩を掴んでいる俺の腕を振り払おうとはしない。
 嫌がる素振りもない。
 顔を近付けたまま見つめ合った。

「・・・いいのか。」
「・・・・・・何が。」
「・・・分かってんだろ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・どうせもう、100年カラダはこのままだ。」
「やけっぱちかよ。」
「・・・・・・気まぐれだ。」
「・・・そーかよ、」
「!!・・・ッ」

 言葉を投げ捨て、犬夜叉は殺生丸の頭ごと抱え込むように口付ける。
 女になった殺生丸の細い腰。特有のくびれは男には無いものだ。
 同時に腰を力強く抱き込まれ、殺生丸は体勢を崩す。
 もつれるようにして二人は地へと倒れた。
 いくら下が草地でも受身も取らずに倒れればそれなりの衝撃はある。
 でもそんな痛みにすら意識が回らないほどの激しい接吻。

「フ・・・・・・ン・・・ッ」

 呼吸さえ奪うように舌を絡める。
 もう止まらない。
 かごめたちと居るときには微塵も感じさせない犬夜叉の男の一面。
 殺生丸しか知りえぬ犬夜叉の性の貪欲さ。
 本能的な欲求か。妖怪の本性か。あるいは。
 計り知れない遥か永い時間の想いが今、爆発したのかもしれない。

「は・・・ッ・・・ァ」
「・・・ッ・・・」

 そろそろ本当に息が苦しい、と生理的に口を離そうとする相手の唇を追い、犬夜叉はなおも舌を捩じ込み執拗な接吻をしながら殺生丸の着物の襟を拡げる。
 中へ滑らせた手で肌を弄り、ようやく離した唇は頬、首筋、鎖骨へと降りてゆく。
 それらの部位を甘噛みするように舐めながら袴の留めを外す。
 犬夜叉は上体を起こすと荒々しく袴や足袋を脱がし、今度はその足先を愛撫する。

「・・・ァ・・・ッ」

 くるぶしに口付けられたとき殺生丸は小さく喘ぎ、嫌がるように身をくねらせるが犬夜叉は脚を離そうとはしない。
 犬夜叉の舌がねっとりと一本一本の足指の間を舐め上げる。
 抱え上げたせいで滑り落ちた着物の裾。露わになった脚の脛、腿へと舌を移してゆく。

 性感帯を刺激されての反応なのか、感じることへの抵抗なのか。
 僅かな強張りと抗おうとする力は感じたが、微々たるものだ。
 今更止められない。
 誘ったのはそっちだろう。
 俺がお前を“慕っている”のを知りながら。
 その上でのこのこ俺の元にやって来た。
 距離を取っていたのはお前の為なんかじゃない。
 こうして抑えられなくなるのが怖かったからだ。
 ずっとあのまま静かに守っていこうと思っていたのも本心。
 けど、もう無理だ。
 気まぐれでもなんでもいい。
 男ならこんな機会を逃しはしない。



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