宿り花 -ほんとは半々、されど愛おしきは-    13P




 


 犬夜叉はきっと自分を探し見付けるだろうと分かっていた。
 慣れない身体に苛立ち酷く怠く動けずにいたのは本当。
 でも追って来ている犬夜叉を避けられないほどではなかった。

 切り落としてしまいたいと思うほど煩わしく、媚びているようないやらしい膨らみ。
 嫌悪の塊。
 まるで他人の体に自分の意識があるような感覚。心と身体の不整合。
 やっかいな花め・・・・・・!!
 最後まで待ったがやはり花が出て行く様子はなかった。
 もう朔は迫っている。
 100年など自分にはどうとないが、花の言うなりのようで気にくわない。
 早く解放されるには、“真に己を想う者と結ばれる”こと・・・くだらなくてもそれしかない。
 だから犬夜叉のところへ自ら足を運んだ。
 案の定犬夜叉は性欲剥き出しで自分の誘いに乗ってきた。
 丁度良い、この半妖が本当に自分を想っているかもこれではっきりする。

 馬鹿な奴だ。
 そんなにこの体を抱きたいか。

 この身体になった原因を話し、戻す術がないことを悟れば犬夜叉は去るだろうと思った。
 それを望んだのも本当。
 犬夜叉に抱かれずとも100年待てば己の身体は元に戻るのだから。

 何故、戻ってきた。
 戻らなければ私の画策に利用されることもなかったものを。
 ・・・利用――――――・・・

 “真に己を想う者”・・・・・・もし・・・もし、これで元に戻らなかったら?
 犬夜叉は自分を真に想っていなかったということになる。

 試すのか。
 利用するのか。
 犬夜叉の想いを。

 どれだけぞんざいに扱おうと片時も自分の傍を離れなかった犬夜叉。
 鬼を片付け、情けないほどの事態に陥っていた自分の元へ駆け付け寄り添った犬夜叉。
 花の話をしても戻ってきた犬夜叉。

 この機会を逃せば100年女のまま。
 だが例え交わり戻れても想いを試したことに変わりはなくなる。
 元より半妖の弟に抱かれることなど望んでいないくせに、利己で相手を利用しようなどと何て浅ましい。
 犬夜叉にもう一つのこの条件を言わなかったのも、言えば犬夜叉は自分を抱くだろうがそれでは元に戻ることの為だけに抱かれているようで嫌だったからだ。

 このひと月ずっと自分の傍にいた犬夜叉。
 ・・・私は―――――――

「・・・ハ・・・ッ・・・ァ・・・犬夜叉・・・ッ」

 このままこの燃える様な熱に身を任せてしまえたら良かった。でも。
 激しい愛撫の中押し寄せる快楽の波に喘ぎながら、殺生丸は犬夜叉の肩を強く掴んだ。




「殺生丸・・・」

 甘い。
 どこもかしこも。
 この身体をずっと抱きたかった。
 やっと自分のものに出来る。
 ・・・本当は朔の夜が明けたら・・・“一緒に居る”。その想いを伝えようと思っていた。
 でも、もしも身体が元に戻ったならそれで良い。
 殺生丸はりんたちの元へ帰り、俺もかごめたちの元へ戻る。
 何もかもはいつも通りのそれだ。
 互いに奈落を追う身。共に敵を同じくしているのだから離れても二度と会えないことはない。
 いずれ何処かで顔を合わせる。
 奈落を滅し全て片付いてからいつかの成就を夢見てゆっくり距離を埋めていけばいい。
 出逢った時からずっと殺生丸だけを想ってきた。
 今までの幾年を思えばこれから先だってどうとない。

 宿った花から殺生丸が解き放たれる条件。
 朔の夜までに花が離れること。離れなければ花が枯れ散るまで100年身体は女のまま。
 でも俺には初めからどっちでも何でも良かったんだ。

 もちろん最初は戸惑った。
 疎ましく思っているのは察していたが、その天生牙を片時も離さず腰に携えていた殺生丸。それをりんや邪見・・・あいつらの護りとなるよう遺して自分は姿を消した。
 何かがあったのは分かっていたがまさか身体が女に変わっているなどとは想定外だった。

 闘いともなれば冷酷で最強の兄。殺生丸は親父の血を色濃く継いだ純血の大妖怪だ。そこらの妖怪には右手一つで事足りるだろう。
 だけどその強さを持ってしても相手が奈落なら話は別だ。今は奈落を敵にし、狙われる身でもある。
 武器も持たずにまともな闘いはおろか、天生牙の鞘だけで身を守りきれるとは思えない。
 危惧の念を抱かずにはいられない状況。
 だから俺が付いていようと思った。
 殺生丸が俺を邪険にしようと何だろうと、傍にいれば護ってやれる。
 身体が元に戻らない限り本当にこのままりんたちと離れたままでいるつもりならそれでも良いと思った。
 だけどあいつらには殺生丸が全て。慕い信じて待つあいつらの為にも例え戻らなくても無理にでも連れ帰ってやりたかったが、なだめすかそうとしても相手の決意は決して揺るがない。
 それならいつまででも傍に居ようと思った。
 殺生丸の事を思い考え俺は俺で決意した。
 でもあくまでどうにか手立てを見付け元に戻してやりたい。
 それも本心。

 だけど一方で恐れていた。
 殺生丸が元に戻ることを。
 戻って欲しいと思いながら心のどこかで戻らなければいいと思っていた。
 何故なら殺生丸の身体が女になった事は願っても無い事態だからだ。
 男だろうと女だろうとどちらでも俺には関係ないが、女の身体のままなら独りでいるつもりの殺生丸。
 俺にとってはいい大義名分が出来たのだ。奈落に託けてずっと殺生丸に引っ付いていられると。
 でも元凶となった花の正体を聞き、つまりは100年元に戻れないと知ったとき――――――――
 相手の気持ちを思うとやりきれないと思う反面、喜んでいる自分も確実にいた。
 離れてしまうことに焦らなくても100年共にいれる理由が出来たと。
 最低な自分。
 結局心の奥底では自分勝手な欲望が渦巻いていた。
 もしもこのままなら、あわよくば・・・

 そう、子供だ。
 オンナの日が来たということは、そういうことだろう。
 女の身体でいるうちに孕ませてしまえばもう後には引けなくなる。
 殺生丸と俺の子供。
 殺生丸が俺を望まなくても、子供が俺と殺生丸とを結んでくれる。
 必然的に永遠に共に居られる理由が出来るのだ。

 だけど。
 もし本当にそれが現実となったら、それはなんて幸せでなんて残酷なことだろう。
 子を産ませて夫婦(めおと)になろうなんて。
 殺生丸が望んでそうなるのなら至上の幸福。だけど望んでいないのなら。
 殺生丸を苦しめ、祝福されず生まれる子供にも辛い業を背負わせる。
 俺もまた罪の意識に苛まれ続ける。

 根底で腹黒く芽生えたよこしまな思い。
 今、殺生丸を抱いたら俺は―――――――――



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